最新記事

ミャンマー

あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性

A GRISLY CONFESSION

2023年1月26日(木)13時45分
増保千尋(ジャーナリスト)

230131p38_MMG_04.jpg

ミンアウンフライン総司令官 ALEXANDER ZEMLIANICHENKOーPOOLーREUTERS

私が救出した脱走兵の中には、軍に在籍していた当時、なぜPDFや少数民族と戦わなければならないのか、理解していなかったという人もいた。彼らはただ、命令に従っていた。特にイデオロギーを持たない兵士も多い。

それに兵士の生活は非常に貧しく、厳しい。任務は過酷で、休みもない。追い詰められると、兵士たちは前線に行きたがる。そこで死に瀕しているときに、彼らは幸福すら感じると言っていた。もうこれ以上、過酷な任務に耐えなくてもいいからだ。

一方、国軍の中には悪賢い人たちもいる。軍が権力を握っている限り、自分たちは富を手に入れられると考えるたぐいの人たちだ。そういう欲深いやからは、自分の財産と地位のために、できる限り長くこの内戦が続いてほしいと願い、やはり軍の命令に従う。つまりミャンマー国軍は、愚か者と強欲な者で成り立っているということだ。

――そうした洗脳が有効なのは、兵士たちが社会から隔絶されているからか。

そのとおりだ。クーデターの前も後も、兵士たちの行動は厳しく制限されているし、簡単には除隊できない。兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。

さらに、兵士たちは自由にSNSを使えない。見ることのできないメディアがある一方、軍のプロパガンダ番組は強制的に視聴させられる。

――兵士を洗脳する方法が体系化されているということか。

非常に体系化されている。兵士たちは今、民主化運動に参加する市民こそ「売国奴」で「テロリスト」で、彼らを銃撃することは英雄的な行為だと教え込まれている。

07年に僧侶たちが反政府デモ(サフラン革命)を起こしたときも、同じような洗脳の手法が使われた。兵士たちは非常に若い頃から洗脳されている。彼らは、「劣悪なプログラムで動くロボット」みたいなものだ。

――自分自身も洗脳されていたと思うか?

私が学んだヤンゴンの軍医学校には、教育レベルの高い兵士がたくさんいたので、私は洗脳を免れた。私の指導教官は民主主義を信じていて、軍内部もじきに民主化が進むと言っていた。私たちは軍の「黒い羊(集団の中の異質な成員)」だった。一般の国軍士官学校に行っていたら、間違いなく洗脳されていたと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷主は「

ワールド

UBS資産運用部門、防衛企業向け投資を一部解禁

ワールド

米関税措置の詳細精査し必要な対応取る=加藤財務相

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中