最新記事

ミャンマー

あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性

A GRISLY CONFESSION

2023年1月26日(木)13時45分
増保千尋(ジャーナリスト)

230131p38_MMG_05.jpg

タイ国境に近いカイン州(旧カレン州)でゲリラとなって国軍に抵抗するPDFの兵士たち REUTERS

――そもそも、あなたはなぜ軍医になったのか?

医師になりたかったが、家がとても貧しかったので軍医学校に行くしか選択肢がなかった。軍医になれば、親に頼らずに生きていけると考えた。いま思えば、当時の私は軍のプロパガンダを信じていたのだろう。軍事政権は絶対的な存在だった。

それに、祖父も父も兵士だったので、国軍に入ることにためらいはなかった。だが入隊から数年たって、徐々に世の中のことが分かり、人権についての知識を得ると、国軍の体制をおかしいと思うようになった。

例えば軍では、もし市民を誤って銃撃してしまったら、「その人物は地雷を仕掛けていた」と報告するように教えられた。軍の中にはそういう行為を「賢い」と考える人もいたが、私は非人道的な行為だと思った。そういうクソみたいな教えには耳を貸さないようにした。

それに、私が勤めていた病院では、たくさんの子供たちが医療設備の乏しさや薬の不足で亡くなった。ミンアウンフライン総司令官は、その気になれば子供たちを救えたはずだが、それをしなかった。軍の幹部が裕福になる一方で、多くの子供たちが貧しさや飢えで死んでいった。

08年に(死者・行方不明者数が約14万人と推定される)大型サイクロン「ナルギス」がミャンマーを襲った。だが、当時の軍事政権が避難民を支援しなかったせいで、食料と医療品の不足によって多くの人が飢えと病気で亡くなった。

にもかかわらず、当時の国営メディアは飢えている人も死者もいないと報じた。国軍が国際社会から届いた支援物資を接収したこともあった。

ミャンマーではこうした醜悪なことが、頻繁に起きている。国軍のせいでわが国の医療と教育は崩壊している。もし軍事政権が続けば、あと50年はこのままだろう。

――兵士はどんな出自の人が多い?

貧しい地方出身者で、ちゃんとした教育を受けていない人が多い。中には読み書きできない人もいる。クーデター後は人員不足から、国軍は犯罪者をリクルートしている。刑に服するか、軍に入隊するかを選ばせるのだ。100万から200万(約6万~12万円)の支度金と引き換えに、入隊する人もいる。これはほとんど人身取引だ。

――脱走する兵士は増えている?

増えている。除隊の許可を得るのは、不可能に近いからだ。腕や足を失っても、退役の年齢を過ぎても、何らかの仕事をさせられる。除隊できても、満足な年金をもらうこともできず、多くの退役兵が困窮する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ワーナー、パラマウントの最新買収案拒否する公算 来

ワールド

UAE、イエメンから部隊撤収へ 分離派巡りサウジと

ビジネス

養命酒、非公開化巡る米KKRへの優先交渉権失効 筆

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中