玉ネギ高騰のフィリピン、食料安全保障でも中国に首を差し出すか
一方で政府の輸入拡大という対策を待ちきれない業者などは玉ネギなどの野菜を密輸し、闇取引でフィリピン国内の流通経路を通じて販売しようとするケースも出てきている。
フィリピン税関当局は2022年12月23日に衣料品の中に白ネギなどの野菜を紛れ込ませて密輸しようとしたケースを摘発した。さらに菓子ボックスに大量の赤玉ネギを隠した密輸も摘発された。これは中国からの密輸品だったという。
スーパー台風の相次ぐ直撃が原因か
フィリピンの玉ネギを中心とした野菜の異常な高騰は2022年にフィリピンを襲った複数のスーパー台風の影響が大きく関係しているといわれている。
2022年9月には台風16号がルソン島を中心にした地域に上陸。大雨や洪水被害が続出し死者は5人だったが、3000人以上が避難する事態になった。翌10月には台風22号が南部ミンダナオ島から北部ルソン島にかけて複数の島を縦断し大きな被害を出した。
このときは大雨による洪水や土砂崩れなどで370人以上が死亡したとされている。
こうしたスーパー台風の襲来で野菜を栽培する農地の多くが浸水被害を受けたため出荷が激減。それが価格高騰につながっているとみられている。
玉ネギはフィリピンでは6月から12月に植えつけられ収穫まで3、4カ月かかるが、9〜10月に相次いだ台風の影響がもろに野菜の成長を阻害し、収穫量の激減を招いたというのだ。
マルコス大統領訪中の成果は
こうした状況のなか、1月3日から中国を訪問して習近平国家主席との首脳会談に臨んだマルコス大統領は14の合意に達する成果を上げた。そのなかには「2023年から2025年にかけて農業と漁業分野での協力に関する共同行動計画」での合意も含まれており、中国との間で不足する野菜類の輸入が今後活発化する可能性もある。
中国は年間2500万トンの玉ネギを生産しており世界最大の玉ネギ生産国といわれている。こうした背景から今後玉ネギを中心に不足する野菜類を中国に依存することも十分考えられるからだ。
マルコス政権と習近平国家主席との関係は玉ネギを介して今後ますます経済面での結びつきがさらに深まるものとみられている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など