「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言
街の化けの皮を剥がす...気分が悪くなるくらいのインパクト
特徴的なのは、前者に自己開示的な側面が強く、後者は池袋という街の化けの皮を剥がすような生々しさがある点である。したがって、どちらに惹かれるかは好みの分かれるところだろうし、優劣を比較するようなものでもない。しかし、タイトルが期待させる池袋の闇の部分に関していえば、中村氏のパートにおいてより際立っているかもしれない。
「池袋は昔から、本当に変態な地域。どうしようもないくらい変態、もうあきれちゃうくらい。四十年前にここに引っ越してきた頃ね、公園で毎日おばあさんが犬とセックスしてたの。犬がおばあさんにバックで突いてるの。犬はクネクネ、クネクネ突いて、おばあさんは気持ちよさそうにしていたわ。私は変態なんて知らなかった頃だから、最初はまさかと思った。じっくり見ちゃった。でも、そんなことが毎日だからすぐ慣れちゃった」
池袋を語るにあたって「変態」という言葉はさけて通れない。変態とは「異常な状態」「普通でない状態」という意味である。犬とおばあさんがセックスしていたのは西池袋公園だという。池袋では異常が日常だ。住人たちはすぐにマヒして受け入れてしまう。(38ページより)
引用されているのは、中村氏が取材した史上最高齢SM女王様夜羽エマさん(60代)の発言だ。白状してしまえば、この部分を読んだ時点で少し気分が悪くなった。38ページ目にしてここまでインパクトが強いのなら、この先どうなってしまうのだろうと。
また、「池袋=変態」と決めつけてしまうのもどうかと感じた。変態はどの街にもいるだろうし、池袋に限った話とは断言できない可能性もあり得る。とはいえ読み進めていくと、「変態」がさまざまな意味において池袋を象徴するワードであること自体は間違っていないのだろうと感じるようにもなっていった。
そしてそんな気持ちは、やがて「変態が『普通でない状態』だというのなら、普通とはなんなのだろう?」という疑問につながっていったりもした。だからといって、ここに描写されているような世界に足を突っ込む勇気はないのだが、正常と異常を分かつ境界線は、意外と曖昧なものなのかもしれない。
変態たちも高齢化し、健康問題を抱えるようになった
少なくとも池袋には、そういった"一般的な尺度からすれば異常と見えなくもない人たち"が集まりやすい磁力のようなものがあるのかもしれない。
それは、かつて池袋で変態居酒屋を経営していたという、とあるママの発言からも明らかだ。
「変態居酒屋をはじめてから、私に頼めば、困ったときになんでも助けてくれるみたいな噂が広まった。だからカラダを売りたい、売春したい、とにかくお金が欲しいって女の子が集まるようになったんです。あとお客さんとか地元のヤクザが女の子を連れてくる。ママのところだと安心だからって」(100ページより)