「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言
池袋には様々な事情を抱えた貧しい女性たちが集まる。池袋西口の片隅に居酒屋を開店してから、稼げない風俗嬢だけでなく、放浪する街娼、貧困女性、ホームレスと、苦境に陥る女性たちが人から人に紹介されてママのところにやってくる。みんなお金がなく、事情を抱えて普通に働くことができなかったりする。(101ページより)
ここでいう"事情"とは、発達障害や知的障害、あるいは精神病などを指す。つまりは昼間の仕事に就きたくても選択肢がなく、できるのはそういう仕事しかないということである。
そして上記の発言からもわかるように、女性の事情を知り、変態を知り尽くしているこのママは、窮地に追い込まれている女性たちにとって重要な存在となっているようだ。女性たちの価値を見出し、"手持ちの変態たち"とマッチングさせているのである。その結果、女性たちの一部は危機的状況から脱することに成功している。
かように、一般的な生活をしている人たち(なにが"一般的"なのかはさておき)には見えにくい現実が確実にあることを本書は教えてくれる。
ところで、そんな池袋の変態界隈にも高齢化の波が押し寄せているらしい。上記のママが面倒を見てきた池袋の変態たちも高齢化し、今は60~70代が中心。令和に入ってから多くの人が健康の問題を抱えるようになり、どんどん死んでしまっているのだという。
最近は変態プレイはできなくなっても、自宅で療養しながらAVや裏ビデオを楽しみたいという要望が多い。高齢者なのでインターネットはわからない。裏ビデオが欲しくても、家族にはいえない。ママに連絡がきて、自宅や病院に裏ビデオを送る日々だそうだ。(103ページより)
表の社会からは見えにくいかもしれないが、そちら側でもしっかりと、"そちら側の社会"が機能しているようである。
『ルポ池袋 アンダーワールド』
中村淳彦、花房観音 著
大洋図書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。