最新記事

BOOKS

「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言

2022年12月9日(金)18時10分
印南敦史(作家、書評家)


 池袋には様々な事情を抱えた貧しい女性たちが集まる。池袋西口の片隅に居酒屋を開店してから、稼げない風俗嬢だけでなく、放浪する街娼、貧困女性、ホームレスと、苦境に陥る女性たちが人から人に紹介されてママのところにやってくる。みんなお金がなく、事情を抱えて普通に働くことができなかったりする。(101ページより)

ここでいう"事情"とは、発達障害や知的障害、あるいは精神病などを指す。つまりは昼間の仕事に就きたくても選択肢がなく、できるのはそういう仕事しかないということである。

そして上記の発言からもわかるように、女性の事情を知り、変態を知り尽くしているこのママは、窮地に追い込まれている女性たちにとって重要な存在となっているようだ。女性たちの価値を見出し、"手持ちの変態たち"とマッチングさせているのである。その結果、女性たちの一部は危機的状況から脱することに成功している。

かように、一般的な生活をしている人たち(なにが"一般的"なのかはさておき)には見えにくい現実が確実にあることを本書は教えてくれる。

ところで、そんな池袋の変態界隈にも高齢化の波が押し寄せているらしい。上記のママが面倒を見てきた池袋の変態たちも高齢化し、今は60~70代が中心。令和に入ってから多くの人が健康の問題を抱えるようになり、どんどん死んでしまっているのだという。


 最近は変態プレイはできなくなっても、自宅で療養しながらAVや裏ビデオを楽しみたいという要望が多い。高齢者なのでインターネットはわからない。裏ビデオが欲しくても、家族にはいえない。ママに連絡がきて、自宅や病院に裏ビデオを送る日々だそうだ。(103ページより)

表の社会からは見えにくいかもしれないが、そちら側でもしっかりと、"そちら側の社会"が機能しているようである。

ルポ池袋 アンダーワールド
 中村淳彦、花房観音 著
 大洋図書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国、625億元の超長期特別国債発行 消費財買い替

ワールド

中国主席が台湾野党党首と会談、「海峡両岸は一つの家

ワールド

韓国中銀、政策金利据え置き 中東紛争でインフレ・成

ビジネス

中国PPI、3月は3年半ぶりプラス転換 中東紛争で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中