最新記事

米ネット

ペロシ宅襲撃事件は「夫と男娼の痴話喧嘩だった」説の出所

The Paul Pelosi Conspiracy Raced from the Fringe to Mainstream. Here's how

2022年11月8日(火)10時45分
ロレンツォ・アルバンテス、マッケンジー・サデギ(ニューズガード)

米副大統領の次に偉いナンシー・ペロシ下院議長(左)と襲われた夫のポール Joshua Roberts-REUTERS

<「警察がペロシ宅に到着したとき、容疑者は下着姿だった」──速報が犯した小さな誤りがあっという間に曲解され拡散し、訂正は無視される。今回その火に油を注いだのは、ツイッター買収を完了したばかりのイーロン・マスク。事件の政治的な意図を打ち消す面白おかしいゴシップ記事を、さも真実かのように引用ツイートしたのだ......>

10月28日に起きた、アメリカ大統領の継承順位第2位であるナンシー・ペロシ下院議長の自宅に男が侵入し、82歳の夫ポール・ペロシをハンマーで殴打した事件。権力者やセレブリティCEOも含む多くのアメリカ人が、これを政治的な襲撃事件ではなく、酔っ払ったゲイカップルの痴話げんかだと思い込んでいるらしい。

この「トンデモ説」は多くの人の関心を集めたが、その拡散に使われた戦術にはあまり目が向けられていない。ニュースサイトの信頼性を評価している「NewsGuard
(ニューズガード)」はこの事件にまつわる偽情報を分析、一部の過激な人々がやりとりしていたフェイクニュースがほんの数日で単なるデマとして無視すべき情報から暴かれた真実として大量に出回るようになった経緯を解き明かした。

きっかけとなったのは情報の少なさと、ニュース記事を書く際に起きがちな意図せぬ誤報だったが、ソーシャルメディア特有の拡散スピードとその拡散力を利用する悪意ある人々により、あっという間に大きく広められてしまった。

報道によれば、デパピはドナルド・トランプ前大統領を「救世主」とあがめ、自身のブログに陰謀論を唱える勢力「Qアノン」のことを投稿するなどしていた人物で、事件当日はトランプのライバルであるナンシー・ペロシを狙っていたと自供している。偽情報を拡散した人々のなかには、米議会の勢力図を決定する中間選挙を目前に右翼と目される人物が暴力事件を起こした、という見方をもみ消そうとした右派も含まれる。

ニューズガードは「ポール・ペロシと容疑者のデービッド・デパペは実は親密な関係にあった」という根拠のない話の元になった、事実とは異なる情報を3つ特定した。(1)警察が現場に到着したとき、デパペは下着姿だった、(2)ポールとデパペは知り合いだった、(3)家の中には未知の第三者がいたが事件を通報しなかった。

誤報が独り歩き

こうした話の出所をたどり、それがいかにインターネット上で拡散したかを調べることで、現代の情報の生態系が見えてくる。ネットを使えば、ニュースの全容が分かる前に速報の段階で恣意的なレッテルを貼ったり、特定のメディアしか見ない人々に向けて偽情報を信じさせたりするのがいかに容易かということも。

偽情報の大元の1つとなったのは、大手報道機関の悪気のないミスだった。サンフランシスコにあるFOX系のテレビ局KTVUが、事件の一報から2時間後に、デパペは下着姿で逮捕された、と報じたのだ。だがデパペが下着しか身につけていなかったという証拠がなかったため、この記事は約2時間後に訂正された。

それから3日後、デパペ本人がペロシの家に侵入したことを認めるとともに、逮捕時には短パンを穿いていたと述べていることが起訴状で明らかになったが、もう手遅れだった。

【画像集】マスク体制のツイッターに別れを告げるセレブたち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中