ペロシ宅襲撃事件は「夫と男娼の痴話喧嘩だった」説の出所
The Paul Pelosi Conspiracy Raced from the Fringe to Mainstream. Here's how
ニューズガードは、KTVUを引用する形でデパペが事件当時下着姿だったと主張する少なくとも70件のフェイスブックやツイッター、TikTokなどへの投稿や記事を特定した。つまりこれは、加害者と被害者が深い仲だったことを示す「証拠」だ、というわけだ。
2人が親密な仲だったという根拠のない主張は、30日にトランプの長男で885万人のフォロワーを持つドナルド・トランプ・ジュニアが「ポール・ペロシに仮装するハロウィーンの衣装の準備完了」というコメント付きでブリーフとハンマーの画像をリツイートしたせいでさらに勢いを増した。この投稿は約2万件以上のいいねを獲得した。
The internet remains undefeated... Also if you switch out the hammer for a red feather boa you could be Hunter Biden in an instant. https://t.co/lOYZ8SwiAZ
— Donald Trump Jr. (@DonaldJTrumpJr) October 31, 2022
右派の人物が偽情報の拡散に大きな役割を果たした例は他にも複数ある。例えば政治評論家でコメンテーターのディネシュ・デスーザは、デパペが下着姿だったことについてのツイートを4回も投稿した。
その結果、KTVUが記事を訂正してから5日、容疑者は政治的な動機でペロシ宅を襲撃したという自白を検察が発表してから2日経っても、偽情報はソーシャルメディアを飛び交い続けた。これはインフルエンサーたちが拡散に関わった場合の偽情報の持久力を物語る。
また記事訂正の限界も露呈した。偽情報を拡散して混乱を引き起こしたい人々からは訂正など全く無視されてしまうのだ。
「誤解」に便乗した悪意ある人々
一方、ペロシの自宅内部にもう1人別の人物がいたという怪情報の出所は報道機関ではなかった。これは警察の公式声明が誤解されて広まったもので、陰謀説を広めたい人々に利用されてしまったのだ。ここからは、偽情報を流す人々が使う常套手段が見えてくる。彼らは自分たちの主張の裏付けとして利用できる時だけ、当局の発表を恣意的に引用するのだ。
邸内にいたというもう1人の人物に関する偽情報の出所は、10月28日にサンフランシスコ市警のビル・スコット本部長が開いた記者会見だ。「警官が今朝、(ペロシの)自宅に到着し、表玄関のドアをノックした際、ドアは内側にいた誰かによって開けられていた」とスコットは述べた。この発言を「事件当時、誰かは分からないがもう1人の人物が家の中にいた」という意味だと多くの人が誤解した。
政治ニュースサイトのポリティコとNBC ニュースも、家の中にいた未知の人物に関して不正確な情報を流してしまった。すると、普段は主流メディアを軽視している陰謀論者は、すかさずその部分を利用した。
ポリティコが10月28日、「警官が家に到着し、玄関のドアをノックして、未知の人物に室内に入れてもらった」と書いた部分は、少なくとも50件の虚偽報道やソーシャル・メディアの投稿に引用されていることがニューズガードの調査で判明した。(ポリティコは直ちに、「警察が到着したとき、ペロシ家の中には(被害者と容疑者の)2人しかいなかった」と記事を訂正した)。
同様に10月30日に放送されたNBCの報道番組ミート・ザ・プレスも、「あの家に警官が呼ばれたとき、家の中に第三者がいて、ドアを開けてくれた」と誤報を流した。担当記者はその後ツイッターで報道を訂正したが、11月3日現在、NBCのウェブサイトに掲載されているこの番組の動画は訂正されていない。
ウソを平気で再生産
一方、極右のニュースサイト「ゲートウェイ・パンディット」は10月29日の記事で、「警官は未知の人物によって室内に入れられたとポリティコが伝えた。この情報はインターネット中に広がっている。世間はこの事件には第三者が関与していたのではないかと考えている」と報じた。
ゲートウェイ・パンディットは、数々の誤報を掲載するフェイクニュースサイトとしてニューズガードが注意を促している札付きのサイトだ。
同サイトはさらに、10月30日の記事で「NBCも襲撃時に第三者がペロシ家にいたことを確認した」と報じた。
ゲートウェイ・パンディットは、ポリティコのような主流派の報道機関を見下し、敵視している。ポリティコの誤報を利用して事実と異なる話を広めるこのサイトのやり方は、誤報の拡散者者がどのような情報源をどのように利用するかを示している。
悪質なフェイクメディアは、主流のニュース機関に対する不信感を露わにする一方で、自分たちの主張を推進するためなら、平気で既存のメディアを利用するのだ。