コロナ禍、ウクライナ侵攻、気候変動で急増するアフリカの飢餓人口。WFP・JICA専門家が考える、これからの食料安全保障
コロナ禍の貧困対策として、津村さん(中央)はガンビアの政府関係者と緊急食料支援について協議した
<世界の中でも深刻な食糧危機に直面している西アフリカ。これからの支援と協力のあり方とは? 国連WFPで14年間アフリカを支援してきた津村康博氏と、天目石慎二郎・JICA 経済開発部次長が語り合った>
異常気象、新型コロナウイルス、ウクライナ侵攻。地球規模の大問題が立て続けに起きている今、世界で飢餓人口が急増しています。なかでも深刻な食料危機に直面しているのが西アフリカです。さまざまな要因で深刻さを増す、西アフリカの食料危機の現状とは。そして問題の解決に向け、これから取り組むべきこととは。アフリカで長年食料支援活動を続けている国連世界食糧計画(WFP)ガンビア事務所長の津村康博さんと、JICAで農業・農村開発を担当する経済開発部次長の天目石慎二郎さんが意見を交わします。日本にも食料価格高騰の影響が及んでいます。食料危機は、決して遠い国の話ではないのです。
飢餓人口は過去最悪のレベルで増加している
――新型コロナウイルスの蔓延に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。この影響を受け、世界中で深刻な食料危機に直面し、飢餓に苦しむ人々が増加しています。現在の状況をどのように受け止めていらっしゃいますか?
国連WFPガンビア事務所長、津村康博さん(以下、津村さん):国連WFPの発表によると、生命や生活に差し迫った危険を及ぼし、緊急の支援が必要とされる深刻な飢餓(急性食料不安)に苦しむ人々の数は、2022年、世界82カ国で3億4500万人に達します。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年と比べて、約2億人の増加です。この増加率はかつてない最悪の数字です。まず、コロナ禍の移動制限や国境封鎖により物流が大きな打撃を受けた影響が大きかった。そしてようやくコロナが少し収まったかと思ったときに、ロシアによるウクライナ侵攻です。食料の供給事情は悪化し続けており、世界中を巻き込む食料危機の状況が長く続くのではないかと懸念しています。
JICA経済開発部次長、天目石慎二郎さん(以下、天目石さん):私たちも大変厳しい状況だと重く受け止めています。JICAは発展途上国の持続的な開発に向け、飢餓の撲滅や農業開発、栄養改善といった分野での取り組みを長年進めてきました。2000年頃から低栄養人口の割合は徐々に低下してきましたが、残念ながら2014年頃から、経済情勢や異常気象、政情不安などによって、特にアフリカを中心にその割合が上昇に転じました。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が大きな打撃を加えました。さらに、国連WFPでも指摘されているように、昨年の飢餓の要因に紛争が挙げられます。アフリカは複合的なリスクに直面し、難しい状況だと認識しています。
――世界でも特に食料危機が深刻な問題となっている西アフリカの現状やその要因について、教えて下さい
津村さん:西アフリカでは、気候変動で天候不順が悪化しており、干ばつや洪水が頻発し、食料の確保が難しくなっています。慢性的な貧困がある上にガバナンスが脆弱な国が多いため、食料価格が上がるとすぐにデモが発生し、政情不安を引き起こします。軍事クーデター(未遂も含め)も数か国で発生しています。また、気候変動による天候不順で水や牧草などの自然資源が少なくなると、争いが起こり、住んでいる場所を追われ、移民が不安定要因になると、また別の場所で紛争が起こります。天候不順や、不安定な経済や政情不安、紛争といったさまざまな要因はつながっており、食料危機もそこに大きく関係しているのです。ちなみにガンビアでは現在、過去35年で一番の豪雨により洪水が各地で起こっており、被災者に緊急食料支援を行っています。
また、西アフリカは農業生産に必要な肥料の多くをロシアやウクライナからの輸入に依存しています。今年は必要量の4割を確保できておらず、次の収穫量がさらに大きく下がる恐れがあります。