習近平が党大会で語っていた不穏な未来
What Xi Reported
【2】低成長時代に順応せよ
経済政策全般についても、習はこれまでの路線の維持を示唆した。「国内外の双循環」や「サプライサイド構造改革」といった数年前に唱えられたスローガンも口にしている。
ただ、中国経済を借金頼みの輸出主導モデルから、高付加価値商品を中心とする内需主導モデルに移行させる点で、中国共産党の成功はごく限定的と言わざるを得ない。
一方、習は「共同富裕」というかねてからのスローガンも口にしており、今後は経済格差の是正に改めて重点が置かれそうだ。
これは、「質の高い発展」の堅持という表現と相まって、中国が低成長期に入ったことを暗に認めたものと解釈できる。人民の暮らしが上向いている限り、マクロレベルの成長鈍化は受け入れていこうというわけだ。
だが、具体的な格差の縮小方法ははっきりしない。それに習の唱える「共同富裕」は、その中核に緊張をはらんでいる。
習は社会のセーフティーネットの必要性を強調しつつ、福祉は「怠惰」を助長するとしばしば述べてきたからだ。
習が重視するのは、雇用による所得拡大だ。「たくさん働けば、たくさん報酬を得られるようにし、勤勉により豊かになることを奨励する」と、今回の活動報告でも述べている。
だが、それで若者の高失業率上昇や、高齢者増加による年金給付負担の拡大といった、現代の中国経済が抱える深刻な問題に対処できるかは分からない。
総じて習は、経済成長よりも、国家安全保障と社会の安定を重視していることをにじませた。ハイテク分野で世界の指導的地位を固めることでさえ、外国技術への依存を低下させるという国家安全保障上の要請と位置付けた。
【3】台湾統一への強い意欲
台湾関連では、習は「最大限の誠意と努力をもって平和的統一の未来を目指すが、必要なあらゆる措置を取る選択肢を留保する」と述べて、台湾統一のために武力行使も辞さないと示唆した。
その上で、「祖国の完全なる再統一は必ず実現しなければならないし、実現できなければいけない!」と締めくくった。
中国指導部はこれまでにも武力行使という選択肢を排除したことはなかった。
だが、習は今回、「外部勢力と、極めて少数の『台湾独立』分裂主義者の干渉」に対して明確な警告を発した。その念頭には、アメリカと台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統があるのは明らかだ。
実は、10月16日に習が読み上げた活動報告は、完全版を要約したものだ。興味深いことに、完全版には、中国の台湾政策の基本線である「1992年コンセンサス」や「一国二制度」への言及があるが、演説ではこれらが省かれた。
習が、テレビ中継もされる演説では、融和的なビジョンを一切示さずに強硬な姿勢を強調したことは、注目に値する。