タイ憲法裁、プラユット首相の続投認める 任期の起算点問題は解決するも抗議の声は収まらず
バンコクでは反対デモも
この憲法裁の決定を受けてバンコク市内では9月30日から10月1日にかけて反プラユット首相を訴える市民や学生によるデモが繰りげられた。
プラユット政権が「民主的」と喧伝する総選挙の洗礼を受けた現在の政権とはいえ、実質的には「軍事政権」の性格を随所に残しているのがプラユット首相だとする反対派の主張は根強い。
特にクーデターで倒されたインラック首相やその前のインラック首相の兄タクシン首相の支持が強いタイ東北部の農村地帯は依然として「反プラユット」の牙城といわれている。
憲法裁による判断が示されたとはいえ今後タイ政局は首相に戻るプラユット氏を中心とする「軍事政権的な性格を残す与党による専制政治」のさらなる強化、野党や民主化を要求する市民や学生らによる「反政府活動」が一層盛り上がり、社会不安、緊張が高まることも予想されている。
2022年11月にはタイで「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」の首脳会議が予定されている。ホスト国首脳としてプラユット首相は日米中韓露など21カ国が加盟するAPECをまとめる役割を担うことになる。プラユット首相としては会議を主導して成功させることで国際社会へのアピールと支持を獲得し、2025年までの長期政権維持に弾みをつけたいとの思惑があり、今回の憲法裁の決定を歓迎している。
とはいえタイの裁判所、裁判官は政府の強い影響下にあり、司法の独立は完全に確立されておらず、政権に配慮したり忖度したりという司法判断も散見するなど必ずしも公正、公平な裁判とは言えないのが実情とされている。それだけに、今後の与野党の攻防、民主派組織の動きが注目されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など