犯罪者の家族がこれほど非難されるのは日本ぐらい
似たような話は他の殺人事件に関してもあるようだが、加害者家族が糾弾されるような傾向は、世間の圧力が強い日本特有のことだそうだ。例えばアメリカでは「親は親、子どもは子ども」という線引きがあるため、日本ほど極端なことにはならないという。
「普通の家庭に落とし穴があるような気がする」
殺人犯は(家族の形態が破綻しているなど)特殊な環境が生み出すのではなく、むしろ「普通の家庭」が落とし穴なのだと阿部氏は指摘する。家庭内に悪人がいるという感じではなく、普通の人の悪い部分がたまたま結びついてしまったようなニュアンスがあるということだ。
「多くの加害者家族の方は、非常に常識的な人なんですよ。私より全然、真面目だなと思ったりして。逆に言うと、ちょっと常識にこだわりすぎる。世の中にある、ある種の多数派についていくタイプというか。たぶん、普通の生き方をしていれば不幸にはならないっていう思い込みがあると思うんですよ。みんながやっているところについていったら、悪いことはないだろうという。でも私は逆に、そこに落とし穴があるような気がしています」(10ページより)
もちろん、全てがそうだとは断言できないだろう。しかし納得できる部分は間違いなくあり、いろいろと考えさせられた。
なお冒頭でも触れたとおり、本書で取り上げられているのは加害者家族の問題だけではない。クローズアップされているのは、それぞれの事件の背後にある問題であり、それらに対して真摯に向き合う人たちの姿だ。彼らの加害者との向き合い方や、なんとか理解しようとする姿勢には心を動かされる。
しかし、だからこそ気になってしまったのが本のタイトルだ。「 」でくくられたタイトルの主語は殺人犯だが、殺人犯が主張を展開しているような本ではない。これではあたかも殺人犯の言い分を集めた内容であるかのような誤解を与えてしまうのではないか。
内容的には説得力を感じさせるものであるだけに、その点だけは引っかかってしまったのだった。
『「死刑になりたくて、他人を殺しました」――無差別殺傷犯の論理』
インベカヲリ 著
イースト・プレス
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。