サイバー攻撃で「ロシア圧勝」のはずが...人類初のハイブリッド戦争はなぜ大失敗した?
A WAR OF CYBER SUPERPOWERS
カーは「残念ながら、ウクライナには機関を横断するようなまとまったサイバー政策はないと考えている」と言う。ただ、情報機関のウクライナ国防省情報総局(GURMO)のサイバー部隊は、侵攻後からロシアのターゲットにかなりのサイバー攻撃を仕掛け、成功しているという。
今年3月には国際宇宙ステーション(ISS)を運用するロシア国営宇宙企業ロスコスモスにハッキングで入り込んで宇宙計画の情報を盗み出し、ロシア中部のベロヤルスク原子力発電所を襲って所内システムのデータを奪うことにも成功している。またボストチヌイ宇宙基地にもハッキングで入り込み、組織の内部文書を公開した。ロシア政府に対し、こうしたターゲットをいつでも破壊できると証明することで、心理的に追い詰める目的もあるという。
カーによれば、GURMOは、ロシア国営ガス大手のガスプロムから1.5テラバイトの内部情報を盗んだ上で、6月16日、ヤマロ・ネネツ自治管区内でガスプロムの天然ガスのパイプラインを「中央制御装置(SCADA)を不正操作する攻撃的サイバー工作で炎上させた」と言う。事実、現地メディアもこの火災のニュースを伝えており、同社は「原因を調査中」としている。
そうした内部文書をGURMOから入手して公開しているカーは、「GURMOは、米CIAや英MI6など西側の情報機関とつながっている。ロシアが放射性物質をまき散らすようなダーティー爆弾や生物化学兵器などを使用する『レッドライン』を越えたら、現在既にハッキングで攻略した施設などを、サイバー攻撃で破壊すると主張している」と言う。
つまりウクライナはロシアからのサイバー攻撃を防ぐとともに、こうした施設を「人質」に取ることでロシアの攻撃激化に歯止めをかけようとしているのだ。
サイバー攻防戦の今後は?
サイバー攻撃の応酬は今後も続くだろう。逆に、もしロシアが狙いどおり、サイバー攻撃でウクライナの国力や戦争継続能力をそぐことができれば、現在はロシアが押し返されているリアルな戦場の状況も大きく変わる可能性もある。
もっとも、ゾーラは、「ロシアからの激しいサイバー攻撃がしばらく落ち着くようなことがあったとしても、ロシアのハッカーやロシア当局がウクライナへの破壊をもたらす計画を諦めたという意味ではない。巧妙なサイバー攻撃は準備に時間がかかる。ロシアはその間に準備をしていると考えたほうがいい」と言う。
「ウクライナとロシアが繰り広げているサイバー戦の勝敗に言及するのは時期尚早だ。侵攻での通常の戦争が終わっても、サイバー攻撃はその後も長く続いていく」