アングル:トランプ関税発動、企業経営に暗雲 二転三転で判断難しく

3月12日、トランプ米政権の関税政策を受けて、スポーツ用品、高級車、化学製品など多岐にわたる業界の企業は12日、消費者心理の悪化や産業界の停滞を警告した。写真はイリノイ州メンドータのコンバイン工場で2月撮影(2025年 ロイター/Vincent Alban)
Tim Hepher Karl Plume
[パリ/シカゴ 12日 ロイター] - トランプ米政権の関税政策を受けて、スポーツ用品、高級車、化学製品など多岐にわたる業界の企業は12日、消費者心理の悪化や産業界の停滞を警告した。
トランプ政権は同日、貿易相手国に対する25%の鉄鋼・アルミニウム関税を導入。欧州連合(EU)とカナダは対抗措置を発表した。
資産運用会社フランクリン・テンプルトンのチーフマーケットストラテジスト、スティーブン・ドーバー氏は、米政府の関税政策が二転三転しており「経済に携わるほぼ全ての人が、日々の意思決定に及ぶ影響を把握しかねている」と発言。
例えば、米政府はカナダ、メキシコ、EUからの輸入品に25%の関税をかけると警告しており、その間、自動車メーカーは合理的な投資計画を立てられないと指摘した。
ドイツの高級スポーツ車メーカー、ポルシェは12日、米国がEUに関税を発動した場合、利益率を損なわずにどのような形で消費者にコストを転嫁できるか検討しているとし、値上げを示唆した。
一部の自動車メーカーは関税を回避するため、米国での増産を計画しているが、アナリストによると、部品メーカーの供給網は自動車メーカーほど現地化が進んでおらず、値上がりする可能性が高い。
カナダのアルゴマ・スチールはカナダから米国への鉄鋼輸出を停止。マイケル・ガルシア最高経営責任者(CEO)は関税を「非常に懸念している」と述べた。
<報復合戦で大惨事も>
欧州航空機大手エアバスのギヨム・フォーリ最高経営責任者(CEO)は、アルミ関税の発効直前、世界が報復合戦に陥れば「大惨事」になると警告。「当社のサプライヤーも影響を受ける恐れがあり、一部で混乱が出始めている」と述べた。
これまでのところ、航空宇宙産業は直接的な打撃を受けていないが、サプライヤーの多くは、トランプ政権の関税の標的になっているメキシコ、カナダ、中国に製造拠点がある。
JPモルガンのチーフエコノミスト、ブルース・カスマン氏は、米国が今年リセッション(景気後退)に陥る確率は40%程度との見方を示し、トランプ氏が4月に相互関税を発動すれば、景気後退リスクは50%に上昇する公算が大きいと述べた。
独スポーツ用品大手プーマや「ザラ」を展開するスペインのアパレル大手インディテックスが発表した決算では、貿易を巡る不透明感が米国の消費に影響を及ぼし始めるとの懸念が示された。プーマは貿易摩擦が課題だとし、人員削減を発表。12日の同社株は一時25%近く下落した。
米欧の酒造業界団体はバーボンなど米蒸留酒に対するEUの関税が業界に「壊滅的な結果」をもたらすと表明。
フランスの化粧品業界団体は、EUが化粧品を対米関税の対象とする方針を示したことを受けて、米国による報復のリスクが非常に大きいと指摘したが、これを受け、エスティ・ローダーなど米化粧品メーカーの株価が下落した。
LSEGのデータによると、米大手企業1500社のうち900社以上が、今年に入り決算説明会や投資家説明会で関税に言及している。
アルミを調達する企業のコストはすでに上昇している。ビール大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)は、関税に伴う投入コストの上昇で、缶ビールが値上がりするとの見方を示した。
ドイツの化学品商社ブレンタークのクリスチャン・コールペイントナー最高経営責任者(CEO)は「混乱した不可解な」経済・政治情勢で企業経営が難しくなっていると指摘。
投資会社セント・ジェームズ・プレイスのジャスティン・オヌエクウシ最高財務責任者(CFO)は「大きなリスクは、企業が支出を停止し、同様に消費者も購入を停止することだ」と述べた。