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社会問題に無関心なのにプライドだけは高い...... 日本のスポーツ選手が「鼻持ちならない存在」に陥る理由とは

2022年9月23日(金)13時40分
平尾 剛(ひらお・つよし) *PRESIDENT Onlineからの転載

こうしてアスリートは幼少期から狭い世界に囲い込まれる。脇目も振らずスポーツに打ち込むうちに気がつけば社会と隔絶され、その狭い世界でアスリート特有のハビトゥス(嗜好性・価値観)が形成される。勝利至上主義や体制への従順さこそが善であると刷り込まれる。とりわけ同調圧力が高いとされる日本社会では、これが顕著なのである。

「元日本代表」の肩書も相手が知らなければ役に立たない

かくいう私も御多分に洩れず、そんなアスリートの1人だった。

同志社大学を卒業後、三菱自動車工業京都(三菱自工)から神戸製鋼所に移籍し、日本代表として1999年にウェールズで行われたワールドカップの日本代表にも選ばれた。

そのときはラグビーがもっと上達したいという思いに支配され、当時社会で何が起こっているかについてはほとんど気にも留めなかった。

だが、2007年にプレー中の脳震盪の後遺症が原因で、志半ばで引退することになった。そのときに初めて、「ああ、自分は社会のことを何も知らない」と思い知った。ラグビー選手という肩書を失ってはじめて、自らもまた社会を構成するひとりの人間に過ぎないことを痛感した。

人間関係を構築する際にそれは顕著だった。周囲から一目置かれる立場でのコミュニケーションはできるものの、互いにフラットな状態で相手の興味や関心を探りながら親密度を深めるそれができない。「元ラグビー日本代表」である自分を相手が知っている状態なら話は弾むが、そうでなければ言葉に詰まる。

会話のプラットフォームを立ち上げるために必要なスキルが、明らかに欠落していた。また、社会常識や教養のなさから話題についていけないことも多く、滑らかに対人関係を築けないもどかしさがついて回った。

無知なのに自意識だけは高い人間になっていた

各年代のセレクションを勝ち抜いてきた私にはおごりがあった。たまたまの巡り合わせとして日本代表になれたと思ってはいたものの、つらい練習を乗り越えてつかんだ結果として自らのアイデンティティーを確立していたのは否めない。私は選ばれし者であり、常人とは異なる特別な存在である。そう思っていた。いや、そう思い込まなければ大舞台であれだけのパフォーマンスはできなかった。

期待に応えるため、また罵声など外野からの邪念を振り切るためには、エゴイスティックに振る舞う必要があった。その残滓が私の心の奥底にとぐろを巻き、それがコミュニケーション難を引き起こしていたのである。思い出すのも気恥ずかしいが、不勉強で無知なのに自意識だけは高い、鼻持ちならない人間だったように思う。

スポーツ界と引退後の社会では求められるものが異なる

人が集まればコミュニティーができる。ひとつ屋根の下に集う家族、近所付き合いとしての地域、児童や生徒、学生同士による学校など、一人では生きられない人間が互いに肩を寄せ合って各コミュニティーは作られる。この小さなコミュニティーが幾重にも折り重なったものが社会だ。大小問わず複数のコミュニティーに属しながら私たちは生活しているが、社会はそれらを束ねる土台である。

各コミュニティー内部の論理と、その外部にあるコミュニティー、およびそれらすべてを包括する社会の論理は、しばしば食い違う。家庭や地域、学校や職場での不文律や慣習がそのまま通用するとは限らない。

たとえばスポーツ界でよしとされる上下関係やそれにともなう従順さは、社会では不自然となる。大舞台でパフォーマンスを発揮するために必要な剝き出しのエゴイズムも、そのままでは無用の長物だ。このコミュニティー内外および社会との相違を、私たちは無意識的に微調整しながら生を営んでいる。この微調整こそが社会性である。

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