ダイアナ死去で犯した間違い、好きだった英首相・米大統領... 元BBC記者が書くエリザベス女王の96年
A QUEEN FOR THE AGES
イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーとの相性は悪かった。意気投合した数少ない例の1つは、1983年に英連邦グレナダへの侵攻を命じたロナルド・レーガン米大統領に対する怒りだった。
女王は議会の法案に署名し、外国の大使を迎え、軍人に忠誠を誓わせる。英国国教会の名目上の最高権威でもある。
威光はあっても具体的な権限を伴わない地位だが、それでもエリザベス2世は冷静沈着な性格と公務に忠実な生き方で君主制の存在意義をアピールし、道徳的な正統性を維持してきた。
2014年にスコットランド独立の是非を問う住民投票を控えた時期、当時の首相デービッド・キャメロンは、住民に英国残留を促すため、女王に「眉をひそめる」よう求めた。
だが女王は唯一の対応として、自身の通うスコットランド・バルモラル城近くの教会の前で市民の1人に向かい、投票については「注意深く考えて」と語りかけるにとどめた。宮殿関係者によると、キャメロンが表立ってそのような要請をしたことを、女王は不快に感じたようだ。
イギリスのEU離脱を問うブレグジット論争では、両陣営がそれぞれ、なんとか女王を自分たちの陣営に引きずり込もうとした。しかし女王は、この問題で国民全体に憎悪と分断が広がったことを残念に思っていた。
2019年にこう語っている。
「個人としての私は、失敗と挑戦を重ねてきたやり方を好みます。互いに相手を褒め、異なる視点を尊重し、一致点を見いだすために協力します。そして、決して大局的な視点を失わないことです」
一度だけだが、政治的な問題に関して、女王の意向をそれとなく政府側に伝えるよう王室スタッフに促したことがある。
南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)への制裁措置に、英連邦内でサッチャー政権だけが反対したときのことだ。即位時に英連邦の全ての民に尽くすと約束していた女王は首相の態度に失望し、英連邦の崩壊につながりかねないと危惧していた。
それでも時代は変わり、女王に対しても王室の現代化を求める圧力は強まった。王室の維持費に対する批判は根強く、トニー・ブレア首相の時代には「王室による浪費」の象徴とされた豪華ヨットが引退を強いられた。
その退役行事で、女王は珍しく人前で涙を見せたという。1992年からは、女王も皇太子チャールズも、自主的に所得税とキャピタルゲイン税を納めてきた。
ダイアナ死去で犯した間違い
在位中、女王と国民の関係が最も危うくなったのは、1997年にパリで起きたダイアナ元妃の交通事故死のときだ。人気抜群のプリンセスの死を世界中が悲しむなか、女王はどこかよそよそしかった。