最新記事

中台関係

口先だけのアメリカに頼れない台湾の、パイロット不足の背景とは?

Facing a New Reality

2022年8月23日(火)13時19分
ヒルトン・イプ(台湾在住ジャーナリスト)

2011~19年の間に新たに育成された戦闘機パイロットはわずか21人。新人が補充されないため現役のパイロットに過大な負担がかかり、それが近年相次ぐ空軍機の墜落事故の一因になっているといわれている。

20年以降、空軍機の事故は10回に上り、今年だけでもF16など少なくとも4機が墜落した。中国軍機がより近い空域に、より頻繁に飛来するようになり、台湾空軍機の緊急発進(スクランブル)回数が増え、機体とパイロット双方に負担がかかっている。

パイロット不足も軍事訓練期間の延長がままならないことも元をたどれば同じ問題に行き着く。それは台湾の人々の軍に対する根強い不信感だ。その背景には長く続いた戒厳令時代の軍の恐怖支配がある。

今の民進党政権が防衛力強化の重要性を一般の人々に強く訴えてこなかったことも問題だ。最近では政府も軍隊のイメージアップを図っているが、台湾の若者にとって入隊は魅力的な選択肢とは映らず、少子化と高齢化が兵員不足に追い打ちをかけている。

アメリカの政治家が来れば中国がおとなしくなるとか、いざとなれば米軍が守ってくれると思っているなら考えが甘すぎる。台湾は防衛力強化の重要性を認めて質と量の両面で増強を図るべきだ。

今回の演習に続き、中国は軍事パトロールなるものを常態化させるばかりか近い将来もっと大規模な演習を行うかもしれず、さらにはそれがただの演習ではなくなる日も来るかもしれない。台湾もアメリカも新たな現実を直視し、危機に備える必要がある。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中