口先だけのアメリカに頼れない台湾の、パイロット不足の背景とは?
Facing a New Reality
うち数発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したため、日本の防衛省がミサイルの軌道を発表。その時初めて台湾の人々は自分たちの頭上をミサイルが飛んだことを知ったのだった。
台湾政府と民衆が平静を装っていても、中国の演習が新たな緊張をもたらしたことは否めない。今回の演習で中国の海・空軍が大挙して多方面から台湾周辺に迫る事態が「常態化」された。
演習中、中国の軍用機と艦船は台湾海峡の中央に引かれた中台を隔てる「中間線」を侵犯。中国は近年侵犯を繰り返しており、中間線は非公式な境界線としての意味を失いつつある。
それ以上に重要なのは、中国が台湾を包囲し攻撃し得る大規模な軍事行動を実行する能力と意思を見せつけたことだ。
アメリカは口先では中国を非難したものの、演習を止めたり妨害しようとはしなかった。ペロシ訪台時には原子力空母ロナルド・レーガンなど米海軍の艦船が台湾近海に派遣されたが、中国の演習が始まる前に撤収してしまった。
パイロット不足の空軍
演習は7日に終了する予定だったが、中国は土壇場でさらに2日間の続行を決めた。そして10日に公式に終了を発表した際には今後も台湾周辺で軍事パトロールを行うと宣言。台湾国防部によると、演習以降は中国の航空機と船舶が日常的に中間線を越えるようになったという。
いつもと変わらぬ人々の表情とは裏腹に、台湾軍の関係者は深刻な危機感を抱いているはずだ。中国軍機や艦船が周辺に出没するようになり、台湾軍は自軍をはるかに上回る中国の海・空軍力を目の当たりにすることになった。
台湾政府は徴兵制から志願制に段階的に移行し、現在は成人男性に4カ月の軍事訓練が義務付けられているだけだ。2月末のロシアのウクライナ侵攻を受けて、台湾当局は訓練期間を1年に延長することを検討し始めた。だが半年近くたった今も延長は決まっていない。
そうしたなか台湾空軍は戦闘機パイロットの不足に頭を抱えている。トランプ政権下でアメリカから最新鋭の戦闘機F16Vを66機購入する契約がまとまったが、その操縦要員を育てるには今のペースでは50年もかかる。