デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢
私のようなフリーライターなど、吹けば飛ぶような存在だ。それでも何とか、息子2人は、自分の将来を選択できる道に進ませることはできた。もちろん、老後、2人の世話になるつもりはない。いや、子どもが母親まで食べさせるなんて、この不況下では不可能なのだ。
こういう世界があったのか─―。自分の力だけで息子に最高の教育環境を用意し、安定した未来を保障している、1人のセックスワーカーの姿に正直、圧倒された。私など、足元にも及ばないと。淡々とした語り口、どこか頼りなげな印象も併せ持つ真希さんの生きざまは、見事であると同時に、大きな衝撃を余韻として私に残した。
子どもを育て上げたシングルマザーを待つのは、さらなる困難
しかし、コロナ禍で状況は一変した。性風俗産業はもちろん、濃厚接触の極みだ。真希さんがどうしているのか、メールを送ったところ、すぐに返信があった。2020年5月、1回目の緊急事態宣言下でのことだ。
メールにはこうあった。
「仕事はお察しの通り、全くありません。お店は営業していますが、お客さんは全然、来ていないみたいですね。私ももう2カ月ぐらい出勤していないので、直近のことはわかりませんが......。
でも逆に、今の時期に稼げたとしても、そこで感染したら説明ができないので、やっぱり、私は休んでいたと思います。他の女の子たちは稼げないから、出勤の日にちを増やしているみたいです。でも、お客さんが来ないから、待機室でクラスターが発生する可能性が高いですね」
授業料の支払いがあるため、真希さんは自治体の緊急小口資金を借りようと、1週間続けて窓口に電話をしているが、繫がらないということだった。
その状況を踏まえ、真希さんはメールをこう結んでいた。
「結局、電話が繫がっても、面談までが1カ月後とかで、実際に借りられるのは、さらに1カ月後とかでしょうね。本当に、やっぱり誰もあてにならないし、自分しか頼りにならないって、再認識しました」
新型コロナの感染収束後であっても、厳しい自粛が要求されるのが性風俗の世界だ。今までと変わってしまった世界で、真希さんはどう生きていくのだろう。
これまでは自身の意思の強さで、息子との生活を築いてきた真希さんだが、コロナ禍のように、自分の意思ではどうしようもない障壁も訪れるわけだ。
感染の第2波、第3波、第4波を迎え、しわ寄せが最も顕著に現れる場で日銭を稼ぐ真希さんの未来を考えれば、今は蓄えがあるとしても、決して、安定したものだとは言い難い。身体あっての仕事であり、感染や暴力とも隣りあわせで生きなければならないリスクを、常に抱えている。
老後に2000万円が必要だという、この国だ。今は40歳という若さだが、20年後、30年後を考えたとき、真希さんにとっても安心できる老後などないと言えるだろう。
懸命に働き、子どもを育て上げた後のシングルマザーに待っているのは、さらなる困難とはあんまりではないか。なぜ、このような社会に、この国はなってしまったのだろう。
黒川祥子
ノンフィクション作家
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。