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デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢

2022年8月11日(木)13時45分
黒川祥子(ノンフィクション作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

貯金が1000万円と、サラリと真希さんは話す。度肝を抜かれること、二度目だ。インタビューのはじめ頃、真希さんが早口で「私は、貧困とはちょっと違って」と言ったのは、このことだったのだ。正規職でも、シングルマザーでこれだけの蓄えはなかなか持てないだろう。

「この仕事をしていなかったら、有名私大の付属高校なんか、到底、行かせられません。息子ものんきにサッカーなんか、やってる場合じゃないです。あのとき、この仕事をたまたま紹介されたから、今がある。そうでなければ、息子は施設に行っていたかも。私の手で育てることができたかすら、わからなかった」

息子のこれまで、現在、そして未来を考えれば雲泥の差だ。父親こそいないが、のびのびと成長を遂げ、好きなサッカーに打ち込み、成績優秀でエリートとしての道を歩んでいる。

当時、スーパーのレジ打ちすら断られた真希さんに、どんな選択肢があったのか。最終的には、生活保護か。いや、実父がいるということで、申請が通らない可能性もある。親子共倒れギリギリの苦しい日々しかなかっただろう。大学進学など、夢のまた夢だ。

取材時の真希さんは、「人妻系のデリヘル」で月に30万円ほど稼いでいた。週3から週4で、時間は10時から16時まで。

「今は不景気で、5人もあたることはないですね。店舗型ではないので、好きなところで過ごし、メールが入れば指定された場所に行きます。気前よく、金払いのいい人が、一番の理想のお客さまです。見た目とか、どうでもいいです」

この状態を、息子が大学を卒業するまではキープしたいというのが切実なところだ。

「息子には、『留年したら、その分の学費はないよ』って言っています。とにかく大学へ進んで卒業すれば、ほぼ、自分の好きな職業に就けるわけですから。息子は理系志望で、私立大の理系って学費が高いじゃないですか。お金の問題は、常にあります。なくなるのは、あっという間ですから。大学卒業まではとりあえず、お金が必要なので」

シングルマザーを支える場所は性風俗産業しかない

真希さんは今の仕事を続けるのはあと10年、50歳頃までだと考えている。

「子どもが大きくなれば、別に夜に働きに行ってもいいわけですから、熟女系のキャバクラとか、スナックでもいいかなと」

子育てが終わった後も、1人で生きていくつもりだ。再婚は考えていない。

「男の人はあてにならないということがわかったので、いい人がいたら、お客さんになってくれたらうれしいって感じです。結婚とかいいからって。1回、失敗しましたから、希望は持てないですね」

これまで取材してきたシングルマザーと違い、子育て後の真希さんに「貧困」はあてはまらない。国民年金をきちんと払っているから、年金は入るものの、国民年金だけでの暮らしは難しい。だからこその老後のための蓄えが、最終的にはどれだけの額になるかはわからないが、とりあえずはある。

結局、皮肉にも性風俗産業しか、シングルマザーを支える場所はないということなのか。

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