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デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢

2022年8月11日(木)13時45分
黒川祥子(ノンフィクション作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

ここで、「売春」の是非を問いたくなる人も出てくると思う。性的行為と引き換えに金銭を得る行為を廃止したい人たちは、真希さんが行っているのは女性への暴力、ジェンダー差別を認める行為だと考えているようだ。セックスワークは貧困に晒された女性がしょうがなく行うものであり、主体的にセックスワークに従事する女性はいないと。

でも真希さんは「嫌だな」と思っても、生活のために自分でこの仕事を選んだわけだ。その考えでいくと、自らの意思で選んだ人たちのことも、"被害者"だと一括りにしてしまう。それは、その人の自由意志を無視した、むしろ差別なのではないだろうか。

真希さん自身も、こう語っている。

「よくホストクラブへの借金で無理やり落とされるとか、世の中がそういうイメージになっているけど、私はそういうことをされたことがないですし、自分の意思でやっている子が多かった。ダンナがヒモという人も多かったけど、強要されて働いているわけじゃなく、自分で選んで働いているわけだから」

売春と言われる行為すべてに虐待や強制があるわけでもなく、店側が金で支配・服従させているわけでもないということだ。逆に店は、問題のある客から女性を守っている側面もあるということが、真希さんの実体験から浮上する。

子どもを超難関の私立高校に進学させる

真希さんの息子は、首都圏の超難関有名私大の付属高校に通っている。

高校卒業後は、確実に日本で1、2を争う有名私大に進学できるという、まさにエリートの道を歩んでいるわけだ。これは本人の優秀さだけでは、叶えることが難しい道でもある。学力・学歴と経済力に相関があることは、教育格差が叫ばれた当時から指摘されている。

真希さんは子育てに関しては、元夫を反面教師とした。息子を元夫のような「サッカーしか知らない」人間には、育てたくなかった。

父への憧れからか、息子は小学生の頃からサッカーを始め、中高でもサッカー部に所属した。しかし、真希さんは年中、サッカー漬けにすることを避けるため、夏休みなどの長期休暇には、子どもをワークキャンプに参加させた。

さまざまな場所で、多様な経験をして欲しいという思いと、子どもがいなければ自分が仕事をできるという事情もあった。

こうして息子は、幼い頃からさまざまな「文化資本」を体験することになった。このことが難関高校入学への道を開いた、一つの要因となったとも言えるだろう。

「冬休みと春休みはスキーに行かせて、夏休みはサマーキャンプに3回ぐらい行かせました。4泊5日ぐらいで、5万円ぐらいかかるものが多かったですね。その間、私はずっとお店に行って働けるので、問題はなかったです」

中学では、自治体が主催する海外留学に、学校推薦で選ばれた。

「留学のための研修が10回ほどあって、部活を休まないといけないので、息子は文句を言うのですが、私は『部活に全部の時間を使うのはもったいない、よくないよ』と、息子に言い続けました」

結局、この海外での体験が受験時の面接で活きることにもなった。

受験にあたってはもちろん、学習塾に通わせた。

「小学生のときはサッカーばっかりやっていたのですが、中学1年の終わり頃から塾に行くようになりました。中3で受験のために選んだ塾は高かったですね、費用が。中3の1年間だけで、テキスト代、交通費、模試代など全部含めて、100万円以上、かかっています」

子どもが高校入学時に貯金1000万円

公立の進学校にも合格したが、受験なしで確実に大学に進みたいという息子の希望で、私立大学の付属高校を選んだ。学費が高いことで有名な学校だったが、真希さんは教育ローンを組むことなく、すべて現金で支払った。

学費以外に制服代、部活のユニフォーム代など20万円ほどかかる高校だ。両親が揃っていたとしても、なかなか厳しいのではないか。

「貯金は一応、子どもが高校に入学するときは1000万ぐらいありました。なので、学費の100万は払うことができたんです。この仕事をしてなかったら、どうなったのかなと思います」

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