2050年には8億人の都市住民が水上生活に?──海面上昇と異常気象で急務の洪水対策
CITY OF WATER
一連のプロジェクトは予算の35%をニューヨーク市、ニューヨーク州、ニュージャージー州が負担し、残り65%は連邦議会で予算が計上されることになっている。バイデン政権下で調査が再開されたが、貴重な時間が失われた。政策立案者の合意はまだ遠そうだ。
デブラシオ市長時代の気象災害対策の責任者で、現在はコロンビア大学の気候・持続可能性特別アドバイザーを務めるザリリは、計画遅延の重大性には触れず、市は目立たない修正をたくさん行ってきたと強調する。
例えば、地下鉄の出入り口を高くするという計画がある。また、スタテン島の海岸線で500メートル強にわたって部分的に水没する防潮堤を造成し、牡蠣(かき)殻をリサイクルした素材で覆って、その成長により自然の堤防の拡大を促すという構想もある。
「短期的、中期的、長期的に小さな対策を積み重ねることが、成功への近道だ」と、ザリリは言う。「特効薬はない。気候変動に対するレジリエンスは、これしかないという明確な方策があるわけではなく、当然ながら話は複雑になる」
地方自治体レベルでは限界も
もちろん、簡単なことだと思っている人はいない。ニューヨーク市の元職員で、都市のレジリエンスの問題に取り組む非営利団体レジリエント・シティーズ・カタリストの創設者アンドリュー・サルキンは、都市にとって最善のチャンスは、長期的な計画を慎重に立てて、新たな建設やインフラのプロジェクトが稼働したときに、レジリエンスに関する取り組みを統合することだと言う。
「課題は山積みで、都市レベルでマネジメントをしようとしても難しい。都市は働くにも統治するにも難しいところだ。プロジェクトに弾みがついたと思ったら、指導体制が代わってしまう」
サルキンによれば、気候の種類によって成功度にはばらつきがある。例えば「ある地域では水害対策は得意だが、暑さ対策はおざなりかもしれない」。
ニューヨークは他の多くの都市よりましだと、コロンビア大学ラモント・ドハティー地球観測所の特別研究員でニューヨーク市気候変動パネル(NPCC)元メンバーのクラウス・ジェイコブは言う。
ニューオーリンズでは陸軍工兵隊が140億ドルを投じて堤防を改修したが、堤防は沈みかけていて、使えなくなるのは時間の問題だ。マイアミビーチでは通常の暴風雨による浸水被害を軽減しようと数十億ドルかけてポンプ設備を建設中だが、すぐに異常気象にやられて駄目になるだろう。
だがニューヨークの計画も十分先を見越してはおらず(多くは50年止まり)、将来の世代は新たな解決策を探さざるを得ないだろうと、ジェイコブは指摘する。
それに計画は包括的でも、新たな建築予定地は相変わらず脆弱な場所だ。イーストリバー沿いに高層ビルが建ち、新しい公営住宅の建設予定地はクイーンズのロッカウェイ地区──サンディで壊滅的被害を受けた地区だ。「先を見越すのではなく直近の災害からの復興」を重視した取り組みばかりだと、彼は言う。