メキシコからの密入国53人が死亡したトレーラー 「VIP待遇」から暗転した国境越え
翌日、オルテガさんはテキサス州の隠れ家の中で、マヨネーズサンドイッチで20歳の誕生日を祝っている。だが、ようやく米国に入ったというのに、オルテガさんの旅はまだ終わっていなかった。国境警備隊は国境から最長160キロ内側まで検問所を設けているからだ。
オルテガさんは妹へのメッセージに「あとほんの少しだ」と書いている。2日後、彼女はオルテガさんに、彼の赤ん坊の超音波画像を送った。
6月21日、ロペスさんは家族に対し最後の連絡をとっており、じきにあっせん業者に携帯電話を取り上げられだろうと予告した。あっせん業者は彼を別の牧場に連れて行こうとしており、そこで数日待機し、サンノントニオに向かう国内の検問所を通過する予定だ、とロペスさんはゴンザレスさんに語った。
ゴンザレスさんによれば、ロペスさんは「子どもたちによろしく。もしうまく行けば、すべてが変わるだろう」と話していたという。
翌日、まだテキサス州内の隠れ家に留まっていたオルテガさんは、母親に対し、到着する移民の数が多すぎるのではと心配し始めている、と語っている。「すでにとんでもない数の人がいる」と彼は書いている。
その後、連絡は途絶えた。
放置されたトレーラー
6月27日午後2時50分、米テキサス州ラレドの北方65キロ、同州エンシーナに近い連邦政府設置の検問所を、赤い1995年式のボルボ製キャブにけん引された18輪の貨物トラックが通過した。
メキシコ当局が取得し報告書の中で公表した監視画像には、黒のストライプシャツを着て、窓から身を乗り出して満面の笑みを浮かべている運転手が映っている。
午後6時前、そこからさらに北に160キロ以上進んだサンアントニオ郊外の工業地区の労働者が、助けを求める声を耳にした。地元当局者によれば、この労働者が声を頼りに探したところ、路傍に放置されたトレーラーを発見したという。
数分後、救急隊員が到着した。当局者は、開きかけたトレーラーのドアからは、熱くなった遺体が重なっているのが見えたと話している。公判資料によれば、地上や近くの茂みにも、複数の遺体が散在していたという。
その日の午後、サンアントニオの気温は39.4度まで上昇していた。だが救急隊員らが見たところ、トレーラーの中には水も空調設備もなかった。
最終的に、死者の数は53人に上った。国籍の内訳は、メキシコが26人、グアテマラが21人、ホンジュラスが6人。警察は、容疑者とされる運転手が犠牲者らの近くに隠れているのを発見した。覚せい剤の影響下にあったとされている。
米国大陪審は、この事件に関連して、銃器の違法所持から密入国ほう助に至る容疑で4人の男性を起訴した。有罪となれば終身刑または死刑を言い渡される可能性がある。