メキシコからの密入国53人が死亡したトレーラー 「VIP待遇」から暗転した国境越え
暴力犯罪、貧困、コロナ禍により、ラテンアメリカ諸国から米国への移民は加速している。今年度、メキシコから対米国境を越えた人数は6月までで過去最高の170万人に達した。一方で不法移民に伴う死者は昨年728人と過去最悪の記録となり、2022年も、これを更新しないとしても似たようなペースで増加しつつある。
強化が進む米国国境の国境警備インフラを回避するため、あっせん業者はリスクの高い方法を選ぶようになっている。大型の18輪トレーラーの利用が流行っているのもその1例だ。
国連のデータによれば、2020年から2021年にかけて、国境越えに伴う車両・輸送関連の原因による死者数は、それ以外の原因に比べて最も増加率が大きくなっている。
あっせん業者への支払いのため、オルテガさんの母親ラファエラ・アルバレスさん(37)はトレーラーハウスを手放した。だがオルテガさんが国境近くに到着したとき、案内人らは、砂漠を迂回する安全なルートに連れて行くため、2000ドル追加するよう求めてきた。リオグランデ川を越え、他の3人の移民希望者とともにトラックの寝台部分に乗ってヒューストンに向かうという。
アルバレスさんは金の宝飾品を質に入れて追加費用を調達した。混み合ったトレーラーには乗らないように息子にはっきりと警告したという。
アルバレスさんが自分の働く建設現場から息子に送った動画で、彼女は「空気がなくなってしまうからね」と息子に語っている。アルバレスさんは、息子と一緒に働けるものと期待していた。
その後2週間、オルテガさんは広々として内装も立派な住宅から写真や動画を送ってきた。国境警備が手薄になるのを待つあいだ、彼はそこでビデオゲームに興じ、あっせん業者はピザや「テカテ」ビールをごちそうしてくれた。
オルテガさんはようやく5月29日になってリオグランデ川を越えた。だが、川岸を越えたところで米国の警備員に捕まり、メキシコに送り返された。
増水した川に飲まれる者も......
ロペスさんもやはり、最初は越境に失敗した。
メキシコ北部の都市モンテレーに飛行機で移動した後、あっせん業者はロペスさんを国境の町マタモロスに連れて行った。
ロペスさんは他2人の移民希望者とともに、狭くて暑いコンクリート造りの住宅で4日間過ごした。それからあっせん業者の案内で、ロペスさんはボートでリオグランデ川を越え、事前の約束通りに車に乗り込んだ。だが翌日、国境警備隊員に停止を命じられ、ロペスさんはメキシコに送り返された。
家族の記憶は定かではないが、6月14日前後にロペスさんは再び国境を越え、今度は成功した。テキサス州では3時間歩いて砂漠を抜け、ラレード近くにある個人所有の狩猟小屋にたどり着き、そこで約1週間過ごした。ロペスさんが妻に送った動画には、星条旗と野生の鹿の頭蓋骨が飾られた広い木造住宅が映っている。ロペスさんは動画の中で「すごくクールだ」と語っている。
その頃、オルテガさんはまだ国境を越えようと苦心していたが、川の水位が高く、難渋していた。ある時など、移民希望者の1人が激流に飲まれるのも目にした。
6月17日、自撮りした写真に映るオルテガさんは、赤い救命胴着を身につけ、親指を立て、小さな空気注入式のボートに乗り込んでいる。今回はついに越境に成功した。