比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交
ロシア製の戦闘ヘリコプターMi―17 Mian Kursheed - REUTERS
<国際情勢が緊迫するなかで、東南アジアのリーダーが決断した選択は──>
フィリピンがロシア製の戦闘ヘリコプター16機の導入を断念したことが明らかになった。
フィリピンの国防相を務めたデルフィン・ロレンザーナ氏は26日夜、ロシア製戦闘ヘリMi―17(ミル17)16機の購入契約が取り消されたことを明らかにしたという。AP通信が7月27日に伝えた。
16機のMI―17導入はドゥテルテ前大統領が政権末期に決裁したもので、導入総額は127億フィリピンペソ(約308億6500万円)で、2019年のドゥテルテ前大統領とロシアのプーチン大統領との会談で大筋合意に達していたという。
導入断念の背景には2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という要素が大きく占め、この今の時期にロシア製軍装備を導入することは国際社会の反発、特に同盟国である米政府によるフィリピンへの制裁発動を懸念した結果であるとの見方が有力だ。
曖昧戦術の2方面政策
フィリピンは6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)新大統領による新政権がスタートしたばかりで、7月25日にマルコス新大統領は初めての施政方針演説を行った。
約1時間にわたりマニラ首都圏ケソン市にある下院議場で行われた施政方針演説ではその大半を国民の最大の関心である経済政策の課題、方針に費やされた。
わずかに言及された外交・安全保障問題では中国との間で島嶼や環礁の領有権問題が存在する南シナ海(フィリピン名・西フィリピン海)に触れて「フィリピンの領土を1平方ミリメートルといえども譲らない」としたうえで「領土保全と国家主権に関する現在、将来の安全保障上の脅威に備えるため国軍の構造を変える必要がある」として1935年に制定された国防法の改正を求めた。
フィリピンは安保では米の同盟国として中国には強い姿勢で臨んでいるが、中国海警局の船舶による度重なる南シナ海でのフィリピン船舶への航路妨害、放水などの挑発には乗らず、対抗措置も中国への抗議に留まるという「曖昧戦術」に終始している。
その一方で経済面では中国が一方的に唱えている「一帯一路」構想の一環として続ける経済支援、インフラ整備、投資の促進などに依存している。
こうした「曖昧戦術」による「2方面」外交の舵取りがフィリピンのしたたかな姿勢へとつながっている。ただ、これはドゥテルテ前大統領時代の政治を踏襲したもので、マルコス新大統領の政権としての新鮮味には欠けているといわざるを得ない状態だ。