比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交
対米配慮でロシアとの関係見直し?
今回のロシア製戦闘ヘリの導入断念に関してロレンザーナ氏は導入に踏み切れば「制裁に直面する恐れがある」と述べた。同氏によると米政府は今回のキャンセルを承知しており、「今後同様の大型戦闘ヘリを供与する可能性がある」としてロシアに代わり米国からの調達の可能性を示唆した。
こうしたことからキャンセルの背景に米政府からの何らかの要求、プレッシャーがあったのではないかとの見方もでている。
今回問題となったロシアからのヘリ導入はドゥテルテ前大統領が任期満了の6月30日の直前に決済したといわれている。
ドゥテルテ前大統領は軍装備や兵器の導入先を米国に限定せず、ロシアなど他国からの導入を図ることで、国際社会でフィリピンの中立性を担保しようとしていたが、マルコス新大統領は安保政策での米依存を明確に示したものと捉えられ、ロシアだけでなく中国の反発も予想されるとの見方が出ている。
今後の対ロシア関係の行方
フィリピンは2021年4月に拡大していたコロナに対する感染拡大防止を推進するためにそれまで使用していた中国製ワクチンに加えてロシア製のワクチン「スプートニクⅤ」の導入を決めた。
これはプーチン大統領とドゥテルテ前大統領との電話会談で決まったもので直後に50万回分がフィリピンに到着し、2000万回分の導入で合意したという。これはワクチン外交での中国依存からの脱却を目指したもので、ドゥテルテ大統領のしたたかな戦略がみえてくる。
このように大国の狭間で独自の政策に基づく「したたか外交」は東南アジアでは珍しくなく、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領も7月26日に中国で習近平国家主席と会談した後、日本の岸田首相との会談に臨み、どちらの首脳とも経済問題での関係深化を協議した。
しかしジョコ・ウィドド大統領の中国、日本両国訪問の真の狙いは11月にインドネシア・バリ島で開催するG20首脳会議への出席の確約をとるという議長国としての役割があったとされる。米バイデン政権は同会議へのロシア・プーチン大統領の出席を拒否するようインドネシア政府へ圧力をかけていると言われ、この件について日本そして中国と意見を交わしたものと見られる。
こうした東南アジアでは珍しくない「したたかな外交」は、今回のフィリピンの戦闘ヘリのロシアからの導入破棄にも発揮されているといえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など