最新記事

東南アジア

比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交

2022年7月28日(木)20時20分
大塚智彦

対米配慮でロシアとの関係見直し?

今回のロシア製戦闘ヘリの導入断念に関してロレンザーナ氏は導入に踏み切れば「制裁に直面する恐れがある」と述べた。同氏によると米政府は今回のキャンセルを承知しており、「今後同様の大型戦闘ヘリを供与する可能性がある」としてロシアに代わり米国からの調達の可能性を示唆した。

こうしたことからキャンセルの背景に米政府からの何らかの要求、プレッシャーがあったのではないかとの見方もでている。

今回問題となったロシアからのヘリ導入はドゥテルテ前大統領が任期満了の6月30日の直前に決済したといわれている。

ドゥテルテ前大統領は軍装備や兵器の導入先を米国に限定せず、ロシアなど他国からの導入を図ることで、国際社会でフィリピンの中立性を担保しようとしていたが、マルコス新大統領は安保政策での米依存を明確に示したものと捉えられ、ロシアだけでなく中国の反発も予想されるとの見方が出ている。

今後の対ロシア関係の行方

フィリピンは2021年4月に拡大していたコロナに対する感染拡大防止を推進するためにそれまで使用していた中国製ワクチンに加えてロシア製のワクチン「スプートニクⅤ」の導入を決めた。

これはプーチン大統領とドゥテルテ前大統領との電話会談で決まったもので直後に50万回分がフィリピンに到着し、2000万回分の導入で合意したという。これはワクチン外交での中国依存からの脱却を目指したもので、ドゥテルテ大統領のしたたかな戦略がみえてくる。

このように大国の狭間で独自の政策に基づく「したたか外交」は東南アジアでは珍しくなく、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領も7月26日に中国で習近平国家主席と会談した後、日本の岸田首相との会談に臨み、どちらの首脳とも経済問題での関係深化を協議した。

しかしジョコ・ウィドド大統領の中国、日本両国訪問の真の狙いは11月にインドネシア・バリ島で開催するG20首脳会議への出席の確約をとるという議長国としての役割があったとされる。米バイデン政権は同会議へのロシア・プーチン大統領の出席を拒否するようインドネシア政府へ圧力をかけていると言われ、この件について日本そして中国と意見を交わしたものと見られる。

こうした東南アジアでは珍しくない「したたかな外交」は、今回のフィリピンの戦闘ヘリのロシアからの導入破棄にも発揮されているといえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の

ワールド

ハンガリー首相、ネタニヤフ氏に訪問招請へ ICC逮

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中