最新記事

香港

「国際金融センター」から「戦争ハブ」へ──「台湾侵攻の拠点化」する香港

FROM ECONOMIC TO MILITARY?

2022年7月26日(火)13時53分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
空母

水深の深い港湾には空母も停泊可能(17年に寄港した遼寧) BOBBY YIPーREUTERS

<既に人民解放軍が1万2000人駐留する香港。住民への厳しい弾圧の背景には、もはや経済的に重要ではないという判断がある。望ましくない住民を追い出して「政治的浄化」し、「台湾解放」を狙う基地に>

1997年の香港返還を前に、中国が宣言したさまざまな約束が破られつつある。2020年に施行された香港国家安全法の下、政治的弾圧は激化する一方だ。

中国への善意に付け込まれ、多額の投資をだまし取られた格好の民主主義各国は当然ながら憤慨し、報復に乗り出している。

その最新例が7月12日、中国問題に関する米連邦議会・行政府委員会(CECC)が発表した報告書だ。香港司法局検察部門の公務員15人を名指しし、人権侵害などを理由とする制裁を示唆している。

アメリカの経済制裁対象者は銀行口座もクレジットカードも失う。香港のあらゆる金融機関が、米金融システムから締め出されることを恐れて、対象者との取引を避けるからだ。制裁を危惧してか、19~20年には香港司法当局の弁護士33人が辞任した。

香港の状況は悪化している。20年9月~21年7月までの学生の退学者数は約2万5000人。加速する移住の動きを反映したものとみられる。成人層では、返還前の大量脱出期と同じく、中間・上位中間層の専門職従事者が移民する傾向が強い。

軍事転用を見据えたインフラ整備

継続的な人材流出は経済に打撃を与える。だが中国政府は、この代償を進んで支払うつもりらしい。厳しい弾圧を長期間続ける背景には、香港はもはや経済的に重要ではないとの判断があるはずだ。ならば中国にとって香港の利用価値は何なのか。

事実を結び付けていくと、浮かび上がる答えは、「台湾解放」をにらんだ戦力投射プラットフォームという位置付けだ。

香港には、世界有数の軍民両用インフラがある。港湾は水深が深く、17年には中国の空母「遼寧」が寄港した。

啓徳クルーズターミナルの拡張工事は15年に完了し、排水量約8万トン級の空母2隻が停泊可能になった。葵涌(クワイチョン)地区に広がるコンテナターミナルは多くの大型戦艦を問題なく収容できる。

各種軍用機の使用に適した滑走路も過剰なほど存在する。将来的な需要増に備えるためとして、16年に着工した香港国際空港第3滑走路は今年4月に完成。この第3滑走路も、1998年に廃港された啓徳国際空港の元滑走路も容易に軍事転用できる。

香港から離陸すれば、中国軍戦闘機は約13分で台湾に到達可能で、飛行時間の半分は中国領空内を飛行できる。さらに、台湾に面した中国沿岸部の軍基地と異なり、香港は台湾のミサイル射程圏外に位置する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中