「国際金融センター」から「戦争ハブ」へ──「台湾侵攻の拠点化」する香港
FROM ECONOMIC TO MILITARY?
水深の深い港湾には空母も停泊可能(17年に寄港した遼寧) BOBBY YIPーREUTERS
<既に人民解放軍が1万2000人駐留する香港。住民への厳しい弾圧の背景には、もはや経済的に重要ではないという判断がある。望ましくない住民を追い出して「政治的浄化」し、「台湾解放」を狙う基地に>
1997年の香港返還を前に、中国が宣言したさまざまな約束が破られつつある。2020年に施行された香港国家安全法の下、政治的弾圧は激化する一方だ。
中国への善意に付け込まれ、多額の投資をだまし取られた格好の民主主義各国は当然ながら憤慨し、報復に乗り出している。
その最新例が7月12日、中国問題に関する米連邦議会・行政府委員会(CECC)が発表した報告書だ。香港司法局検察部門の公務員15人を名指しし、人権侵害などを理由とする制裁を示唆している。
アメリカの経済制裁対象者は銀行口座もクレジットカードも失う。香港のあらゆる金融機関が、米金融システムから締め出されることを恐れて、対象者との取引を避けるからだ。制裁を危惧してか、19~20年には香港司法当局の弁護士33人が辞任した。
香港の状況は悪化している。20年9月~21年7月までの学生の退学者数は約2万5000人。加速する移住の動きを反映したものとみられる。成人層では、返還前の大量脱出期と同じく、中間・上位中間層の専門職従事者が移民する傾向が強い。
軍事転用を見据えたインフラ整備
継続的な人材流出は経済に打撃を与える。だが中国政府は、この代償を進んで支払うつもりらしい。厳しい弾圧を長期間続ける背景には、香港はもはや経済的に重要ではないとの判断があるはずだ。ならば中国にとって香港の利用価値は何なのか。
事実を結び付けていくと、浮かび上がる答えは、「台湾解放」をにらんだ戦力投射プラットフォームという位置付けだ。
香港には、世界有数の軍民両用インフラがある。港湾は水深が深く、17年には中国の空母「遼寧」が寄港した。
啓徳クルーズターミナルの拡張工事は15年に完了し、排水量約8万トン級の空母2隻が停泊可能になった。葵涌(クワイチョン)地区に広がるコンテナターミナルは多くの大型戦艦を問題なく収容できる。
各種軍用機の使用に適した滑走路も過剰なほど存在する。将来的な需要増に備えるためとして、16年に着工した香港国際空港第3滑走路は今年4月に完成。この第3滑走路も、1998年に廃港された啓徳国際空港の元滑走路も容易に軍事転用できる。
香港から離陸すれば、中国軍戦闘機は約13分で台湾に到達可能で、飛行時間の半分は中国領空内を飛行できる。さらに、台湾に面した中国沿岸部の軍基地と異なり、香港は台湾のミサイル射程圏外に位置する。