最新記事

日本政治

安倍元首相銃撃で有権者と近い「日本型選挙運動」は変わるか 海外専門家に聞く

2022年7月10日(日)10時08分
奈良市の近鉄大和西大寺駅付近の安倍晋三元首相が襲われた事件現場で祈る人々

安倍晋三元首相が7月8日の選挙演説中に至近距離から撃たれ死亡した事件を受け、政治的暴力や銃犯罪が極めてまれな日本では、知名度の高い人物の警護に対する懸念が広がっている。街頭演説での要人警護について、海外の専門家に意見を聞いた。写真は、奈良市の近鉄大和西大寺駅付近の事件現場で祈る人々(2022年 ロイター/Issei Kato)

安倍晋三元首相が8日の選挙演説中に至近距離から撃たれ死亡した事件を受け、政治的暴力や銃犯罪が極めてまれな日本では、知名度の高い人物の警護に対する懸念が広がっている。街頭演説での要人警護について、海外の専門家に意見を聞いた。

距離の近い親密なイベント

過去に安倍元首相と選挙キャンペーンに参加したことのあるポール・ネドー氏によると、日本の街頭演説は「私的なイベントに近い」という。

自民党議員の個人秘書を務めた経歴を持ち、現在はテンプル大学ジャパンキャンパス(東京)の非常勤講師を務めるネドー氏は「一般市民が近くにいて、彼らは通常、駅前の広場を埋め尽くしている」と指摘。「不安や危険は全く感じない」と述べた。

奈良選挙区選出の参議院議員、自民党の堀井巌氏は、安倍氏が銃撃された際に隣にいた。安倍氏の街頭演説では党員約15人が聴衆の整理に当たり、警護は地元警察などが担当しており、珍しいことではなかったと述べた。

在任期間最長の総理大臣として、最も影響力のある政治家の1人である安倍氏が最近出席した選挙イベントには、多くの人が集まっていた。その知名度にもかかわらず、ある自民党関係者はロイターに対し、2020年8月の総理辞任以来、安倍氏の警護のレベルは低下している可能性が高いと述べた。

奈良県警は、総理経験者の警護が手薄になるかどうかについて、今後の警護活動に支障を来すとして回答を避けた。

「厳格」な銃規制

日本の銃規制は非常に厳しい。

事件当時の写真や映像によると、容疑者は2本の金属パイプを黒い絶縁テープで巻いたような銃で安倍氏を撃った。

元米海兵隊大佐で、日本戦略研究フォーラムの上席研究員であるグラント・F・ニューシャム氏は、今回の事件により日本では政界の要人を巡る警護が強化されるとみる。

英シンクタンク、国際戦略研究所のシニアフェローで、ロンドンに拠点を置くロバート・ウォード氏は「警護に対する疑問が出るだろう。例えば、岸田首相に対する警護の方がはるかに厳重だったことは明らかだ」と指摘。

「ただ、有権者の近くにいることが日本の選挙運動の特徴だ。私は選挙集会に参加したことがあるが、一般市民との距離が近い。もしかしたら今後は変わるかもしれない。そうなれば、残念なことだ」と述べた。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月に追加利下げの見通し=フィンランド中銀

ビジネス

3月百貨店売上高は前年比2.8%減、インバウンド3

ビジネス

英消費者信頼感指数、4月は23年11月以来の低水準

ビジネス

3月ショッピングセンター売上高は前年比2.8%増=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中