火星に春を告げる、青い噴出物 NASAの探査衛星MROが捉える
「地表を覆う透明なドライアイスの層に噴気孔が空き、ガスの逃げ道をつくる」...... credit: NASA/JPL-Caltech/UArizona
<ドライアイスの層が溶け、毎年春になると噴出物が巻き上がる>
地面から噴き出す煙は、火星の春の風物詩となっているようだ。NASAは6月27日、火星周回探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」が捉えた火星表面の画像を公開した。
写真に収められた黒と青のパターンは、火星で毎年春に起きる噴出現象の証だ。地表の数箇所に孔が空き、色素が扇状に沈着している。孔からの噴出物が風で運ばれ、地表に堆積したものだ。
「火星の春」とは耳慣れないことばだが、火星には四季がある。公転周期が長く、火星の1年は地球の687日に相当することから、地球の約2倍の時間をかけて季節が変化している。撮影が行われた3月、このエリアは春を迎えていた。
NASAは「地表を覆う透明なドライアイスの層に噴気孔が空き、ガスの逃げ道をつくるという、春の活動が観察できます」と解説している。春になると気温の上昇に伴ってドライアイスが昇華し、気体となることで体積が急激に膨張する。層の下部で圧力を増した気体の二酸化炭素が、層を突き破り孔から噴出するという現象だ。
このとき、高く噴出した気体は、地表付近の堆積物を空中に吹き上げる。黒みを帯びた粒子が空中に舞い上がり、火星の風によって運ばれてから付近に扇状に降着する。これがユニークな模様の正体だ。降着物の一部はドライアイス内部に再び染み込み、このとき色は明るいブルーに変化する。
噴出スポットは少なくとも数百ヶ所
カラー画像だけでも数個の噴気孔が捉えられているが、別途公開されている白黒の画像には、200〜300ヶ所の孔が収められている。この画像で確認できるだけでも、非常に多数のスポットからガスが噴出している模様だ。
ひとつのポイントから複数の方向に模様が広がっている箇所は、風向きが変わってから再び孔が開いたことを意味する。噴出が止むとその孔は一時的に閉じるが、再び同じ場所からガスが噴き上げることが多い。
なお、吹き上がる堆積物の由来について、MRO搭載の光学観測機器「HiRISE(ハイライズ)」を運用する米アリゾナ大学の月・惑星研究所は、ドライアイスの層の下に眠っていた物質である可能性が高いと分析している。
地面のひび割れも、季節の変化で発達
今回公開された写真ではまた、地表に刻まれたマスクメロンのような網目模様が目を引く。この独特なパターンも、ドライアイスの層によって生み出されたようだ。
火星の土壌は、氷を含んでいる。季節や昼夜の変化によって温度が変わることで氷は収縮・拡大し、これが表土に亀裂を生じる。こうして生じるヒビ自体は単純な形状だが、春の期間にドライアイスが昇華することで、亀裂をさらに侵食する。歪みと細かなひび割れが加わり、より複雑な模様が発達してゆくことになる。