最新記事

アメリカ社会

「高学歴者は自分を見下している」──典型的なトランプ支持者の弟に伝えたいこと

“I Want My Brother Back”

2022年6月22日(水)17時12分
カーメン・プレスティ(マイアミ大学助教、ジャクソン記念病院非常勤看護師)
カーメン・プレスティ

短い期間に姉弟の関係はすっかり変わってしまったと語る筆者 CARMEN PRESTI

<温厚だった弟は熱烈なトランプ支持者になり、私をイデオロギー上の敵と見なすようになった。アメリカにはびこる、反知性主義について。そして、今こそ対話が必要なこととは?>

3歳下の弟と私は、米フロリダ州マイアミ市のキューバ系移民の家庭で育った。ずいぶんけんかもしたけれど、大人になって家庭を持ってからは家族ぐるみで親しく付き合い、一緒に休日を過ごすことも多かった。意見が一致しないことがあっても、互いへの敬意と愛情を失うことは決してなかった。

ところが、とても短い期間で私たちの関係はすっかり変わってしまった。

弟は温厚な性格で、政治にあまり関心を示さなかったが、2016年を境にドナルド・トランプの熱烈な支持者に変わった。大きなトランプの旗を飾ったり、トランプのTシャツを着たり、携帯電話の着信音をトランプの声にしたり。

一方の私は、10代の頃から筋金入りのリベラル派。共和党支持の保守派が多い家族と意見が合わないのは今に始まったことではないが、口論になることはなかった。

しばらく前の家族の集まりで、新型コロナワクチンの接種率をめぐる議論になった。看護師としてコロナ病棟で働く私は、支持政党によって接種率に大きな差があることを指摘し、コロナの悲劇から身を守るためにも、もっと多くの人に接種を受けてほしいと言った。

すると弟は、支持政党による接種率の違いなどないと言い、私がデータをでっち上げていると反論した。さらに、私が受けてきた教育をあざ笑い、私がこの2年余りの間、数々の悲しい症例を目の当たりにして心を痛めていることまで物笑いにした。その攻撃的な姿勢は、子供の頃に戻ったかのようだった。

学歴をめぐる憎悪の感情

それから数カ月。弟から謝罪の言葉はまだなく、それ以降、私たちは言葉を交わしていない。憎しみにゆがんだ弟の顔が今でも目に浮かぶ。

どうして、弟は変わってしまったのか。1つ思い当たることがある。あの晩、私にかみついたとき、弟はしきりに学歴にこだわっていた。

弟に言わせれば、5人きょうだいで1人だけ大学に進学し、大学院でも学んだ私が学歴を理由に弟たちを見下しているというのだ。私自身は、たたき上げの技術者として成功している弟のことをずっと誇りに思ってきたのだが。

このような学歴をめぐる怒りの感情は、右派に典型的な態度だ。右派の人たちはしばしば、左派の人間が尊大なエリートだと批判する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中