コロナ収束で観光客期待する世界遺跡の入場料値上げ? 地元や国民も猛反対で「朝令暮改」に
ところがその後も批判は止まず、国会からも「当面の延期では不十分」「根本的な見直しが必要」などとの指摘があったという。そして「外国人観光客1人100ドルはいくら何でも高すぎる」「外国人観光客の敬遠、減少の方が観光業への打撃は深刻だ」「事前の詳しい説明もないままの今回の決定は現地を無視した愚策である」など手厳しい反論が観光業者や市民からも相次いで噴出した。
その結果、9日になって「料金値上げの可否は1年後に改めて決めたい」とルフット・パンジャイタン調整相が表明。形のうえでは1年後に延期としたものの値上げは事実上撤回されることになった。
世界的観光地のボロブドゥール遺跡
ボロブドゥール遺跡はインドネシア観光の目玉で、同じく世界的観光地であるバリ島への観光客もボロブドゥール遺跡と近くにあるヒンズー教遺跡「プランバナナン」をセットで訪問するツアーを利用するケースが多い。
また時間的に余裕のある観光客は、ボロブドゥール遺跡敷地内や近郊のジョグジャカルタ、ソロなどの都市から早朝に駆け付け、遺跡上部から幻想的な日の出を見る「ご来光ツアー」も人気が高い。
インドネシア国内からも学生や児童の修学旅行などで訪れる人は多く、地元英字紙「ジャカルタ・ポスト」によるとコロナ禍以前の2019年にボロブドゥール遺跡を訪れた観光客は1日当たり1万3000人に上っていたという。
遺跡は3層9壇の階段状で周囲の壁には仏陀の生涯が石堀で描かれ、頂上部には大きなストゥーパがあり周辺には小さなストゥーパが並ぶ。
シャインドラ王朝時代の西暦780年ごろに建設が始まり792年ごろに完成したといわれている。1992年にユネスコの世界遺産に「ボロブドゥール遺跡群」として登録され、さらに多くの世界からの観光客が訪問するようになった。
再び政府の十八番「朝令暮改」
こうした閣僚や政府による決定がその後覆されたり、撤回、中止、延期されることはよくあり、インドネシア政府の「十八番」とさえ言われている。
コロナ感染防止策の相次ぐ変更、ジャカルタのアニス・バスウェダン州知事による公共交通機関の運行制限の撤回、ジャカルタ~バンドンを結ぶ高速鉄道計画の相次ぐ完工期の延期、カリマンタン島東部への首都移転に関する海外からの投資に関する姿勢の変更など、政府の「朝令暮改」「方針転換」は枚挙にいとまはない。
事前の根回しや協議・説明が不足というより「省略」されて物事が一部の人や部署だけで進められることが多いことが原因とされているが、インドネシア政府は別段そのことを気にしているような気配はほとんど見えず、相変わらず「朝令暮改」が日常茶飯事のような状態が続いており、その状況はもはやある種の「文化」ともいえるかもしれない。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など