独裁者は最後はメンツに執着する──今から「ロシア敗戦後」を想定する意義
AN IMPERFECT PEACE IN UKRAINE
アメリカとNATO諸国は、ロシアの敗北を画策するに当たって終戦後を想定することを忘れてはならない。ウクライナの抗戦を支援する際にも、ロシアをヨーロッパのより大きな安全保障の枠組みに取り込み、ロシアの懸念を考慮しつつ枠組みを再構築する必要がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領がしたも同然の妥協、つまりNATOへの加盟を諦めること以外に、ドネツクやルハンスク(ルガンスク)といったロシア系住民が多い地域での和平も必要だ。プーチンがクリミア併合を撤回することはほぼないだろうが、モスクワから黒海に伸びる領土全てを傘下に収める夢を見送ることには合意するかもしれない。
プーチンに対し、適切な戦略的条件と引き換えにこれらの点について妥協させる責任は、第一にアメリカにある。結局のところ、プーチンにとっていま戦っている相手はウクライナだけではなく、アメリカとNATOなのだ。バイデン米大統領がプーチンを追い詰めることの危険性を認識しているのであれば、プーチンのメンツを立てることが可能な出口戦略を提示すべきだ。
そうした申し出は、ウクライナが望むような正義はもたらさない。一方で、ロシアへの勝利ももたらさない。双方にとって不満足な結果で、誰にとっても残念だが、これ以外のシナリオよりはマシだ。
シュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。