独裁者は最後はメンツに執着する──今から「ロシア敗戦後」を想定する意義
AN IMPERFECT PEACE IN UKRAINE
ウクライナ東部の都市イルピンを守るウクライナ兵(4月28日) JOHN MOORE/GETTY IMAGES
<ウクライナが望む「正義」もロシアの「勝利」もなく、誰にとっても残念な結果に終わる。しかし、それがその他のシナリオよりはマシである理由とは?>
ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻に正義などないことは、火を見るよりも明らかだ。しかし戦争終結に向けた和平交渉で重要になるのは、正義の行方だけでない。終戦後も和平が続くのか、またプーチンが国益と野心のバランスをどう取れるかが鍵となる。
では、ウクライナにとって安定的な平和とはどんな形があり得るのか。理論的に言えば、それはウクライナにとって真の正義がなされること。つまりロシアの無条件の敗北、ウクライナの全ての領土の返還と保全、そして可能であれば、ロシアがウクライナに金銭的賠償をし復興を助けることだ。多くの識者にとって、これはあり得るシナリオだ。
例えばイギリスの歴史学者アントニー・ビーバーは、ロシア軍は崩壊し屈辱的な撤退を余儀なくされると予測する。しかし、プーチンの軍隊は時代遅れであるとはいえ、数の力でウクライナ東部と黒海沿いで領土の大幅拡大に成功してきた。
またこの戦いはウクライナの国土で行われているため、ウクライナ経済は機能不全に陥り、ロシア兵はウクライナ市民を標的にしている。今回の戦争で事態が膠着すると、たとえプーチンが化学兵器や戦術核兵器を使わなくとも、ロシアよりもウクライナへのダメージのほうがはるかに大きい。もしプーチンがその一線を越えれば、ウクライナの被害は飛躍的に拡大するだろう。
これは現実的なリスクだ。忘れてはならないのは、ロシアは世界最多の核兵器を持ち、プーチンにはそれを自由に使える力があり、彼にとって敗北を受け入れることは到底不可能だということ。独裁者が戦争に負ければ、権力だけでなく、時には命さえ失うことになる。もしプーチンが窮地に立たされていると自覚すれば、少なくともメンツだけは保とうと戦術核兵器を使うことを考えても不思議ではない。
一方、ロシアが完全に敗北したとしてもその後の展開を予想すると不気味だ。完全な敗北があり得るのは、プーチンがクーデターで排除される事態。だが新生ロシアが、民主化され、プーチンの野望を捨てる可能性は低い。さらにあり得るのは、ロシアがクーデターを起こした人物たちの支配下に入り、復讐心に燃え、核兵器を持つならず者の超大国となることだ。第1次大戦後のドイツを思い浮かべてみればいい。