ウクライナの文化遺産をロシアから守れ 奮闘するオンライン部隊
SUCHOによると、数字に変動はあるものの、ボランティアがバックアップの必要性を指摘した数千件のウェブサイトのうち、15%程度が現在インターネットに接続されない状態になっている。原因はサーバーやインターネットケーブル、電線の破損の場合もあるし、料金未払いの場合もある。
「ウクライナ市民は今、ウェブサイトのサーバー代金以外に優先すべきことがたくさんある」とドンブロウスキー氏は話す。
ハーバード大のウクライナ研究所も、窮地に陥っている研究者にクラウドストレージを提供しているほか、ロシアによる侵攻のデジタルライブラリーを作った。
デジタルライブラリーは、ニュースサイトや政治家のソーシャルメディアなど厳選したウェブページを、時間を変えて繰り返し記録するオンラインツールを使って作られている。
こうした取り組みによって研究者は、戦争中にネット上で何が報道され、何が語られたかを遡ることが可能な、一種のタイムマシンを手に入れることができる。
また、ポーランドのピレツキ研究所は、博物館や遺跡の破壊など文化遺産に対する戦争犯罪の証拠を収集・保存するために、主に難民からの目撃証言を記録している。
難航する作業
戦争による混乱の中、こうした取り組みは成功することもあれば、失敗することもある。
SUCHOの共同設立者のセバスチャン・マジストロウィク氏によると、国勢調査の記録や裁判記録などを入手したのは、ハリコフ市の国立公文書館のウェブサイトがダウンするわずか数時間前だった。しかし、救済が間に合わなかったウェブサイトは枚挙にいとまがないという。
インディアナ大学の研究者、イリナ・ヴォロシナ氏によると、ウクライナの国民的画家、マリア・プリマチェンコ氏の作品を所蔵するキエフ近郊の小さな博物館は、AFSがその存在を発見する前に炎に包まれてしまった。
ヴォロシナ氏によると、作業に長時間かかる場合もある。「動画や、何年分もの作品など、テラバイト単位のデータも少なくない。たとえインターネットの接続が安定していても、アップロードを終えるのに1週間要することもある」
課題はほかにもある。AFSのターナー氏によると、送られてくるデータにはコンピューターウイルスが付着していることが多く、それを除去するのに時間がかかるという。
また、ターナー氏によると、AFSは研究者に対し、自身が戦争を生き残れなかった場合、写真やビデオなどの作品をどうするかという気の重い質問もしている。最初の契約では、短期間の保管を提供するだけだったためだ。
(Umberto Bacchi記者)
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