最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナの文化遺産をロシアから守れ 奮闘するオンライン部隊

2022年5月1日(日)15時55分

SUCHOによると、数字に変動はあるものの、ボランティアがバックアップの必要性を指摘した数千件のウェブサイトのうち、15%程度が現在インターネットに接続されない状態になっている。原因はサーバーやインターネットケーブル、電線の破損の場合もあるし、料金未払いの場合もある。

「ウクライナ市民は今、ウェブサイトのサーバー代金以外に優先すべきことがたくさんある」とドンブロウスキー氏は話す。

ハーバード大のウクライナ研究所も、窮地に陥っている研究者にクラウドストレージを提供しているほか、ロシアによる侵攻のデジタルライブラリーを作った。

デジタルライブラリーは、ニュースサイトや政治家のソーシャルメディアなど厳選したウェブページを、時間を変えて繰り返し記録するオンラインツールを使って作られている。

こうした取り組みによって研究者は、戦争中にネット上で何が報道され、何が語られたかを遡ることが可能な、一種のタイムマシンを手に入れることができる。

また、ポーランドのピレツキ研究所は、博物館や遺跡の破壊など文化遺産に対する戦争犯罪の証拠を収集・保存するために、主に難民からの目撃証言を記録している。

難航する作業

戦争による混乱の中、こうした取り組みは成功することもあれば、失敗することもある。

SUCHOの共同設立者のセバスチャン・マジストロウィク氏によると、国勢調査の記録や裁判記録などを入手したのは、ハリコフ市の国立公文書館のウェブサイトがダウンするわずか数時間前だった。しかし、救済が間に合わなかったウェブサイトは枚挙にいとまがないという。

インディアナ大学の研究者、イリナ・ヴォロシナ氏によると、ウクライナの国民的画家、マリア・プリマチェンコ氏の作品を所蔵するキエフ近郊の小さな博物館は、AFSがその存在を発見する前に炎に包まれてしまった。

ヴォロシナ氏によると、作業に長時間かかる場合もある。「動画や、何年分もの作品など、テラバイト単位のデータも少なくない。たとえインターネットの接続が安定していても、アップロードを終えるのに1週間要することもある」

課題はほかにもある。AFSのターナー氏によると、送られてくるデータにはコンピューターウイルスが付着していることが多く、それを除去するのに時間がかかるという。

また、ターナー氏によると、AFSは研究者に対し、自身が戦争を生き残れなかった場合、写真やビデオなどの作品をどうするかという気の重い質問もしている。最初の契約では、短期間の保管を提供するだけだったためだ。

(Umberto Bacchi記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中