最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナの文化遺産をロシアから守れ 奮闘するオンライン部隊

2022年5月1日(日)15時55分
ロシアの攻撃で廃墟となったキーウ近郊の建物

ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。写真はキーウ(キエフ)近郊のボロディアンカで7日撮影(2022年 ロイター/Zohra Bensemra)

ウクライナの首都・キーウ(キエフ)に空襲警報が鳴り響いた今年2月下旬、国の民芸品を収蔵する「イワン・ゴンチャー博物館」では何人かのスタッフが、比較的安全な防空壕を出て職場に戻り、作品のデジタルコピーのバックアップ(複製・保存)を取ることを決断した。

ロシアプーチン大統領はウクライナに侵攻する数日前に、同国は人工的に造られた国だと言い放った。博物館のスタッフにとってこの発言は、自分たちが一生を捧げて記録してきたウクライナ独特の文化に対する脅しに映った。

ミロスラワ・ウェルチュク副館長は、トムソン・ロイター財団の電話取材に「私たちにはこの文化を守る大きな責任があった」と話した。イワン・ゴンチャー博物館は民俗資料を収集し、絵画や衣服、楽器なども集めている。「コレクションが損傷したり破壊されたりしても、再構築できるようにしたかった」という。

スタッフは作品救出のため、展示品のデジタルコピーや民族音楽の録音など無形資産をクラウドデータベースにアップロードした。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて米インディアナ大学に拠点を置く非営利組織、アメリカ民俗学会(AFS)が、ウクライナの文化遺産を守る幅広い草の根活動の一環として、データのバックアップを保存するクラウドストレージの利用環境を整えた。

ロシアの爆撃が始まったときにAFSは、野外での録音、インタビュー、写真、資料などを持っていそうな研究者や専門家、博物館、個人収集家に連絡を取り、支援を申し出た。

AFSのエグゼクティブディレクター、ジェシカ・ターナー氏は「私たちが取り組んでいるのは、クラウドストレージのリンクを個別に提供し、データのバックアップを可能にすることだ」と話した。「私たちはこうしたデータを保管し、(ウイルスが)除去され、安全であることを確認し、ウクライナの人々が再び必要になった際には用意することができる」

デジタル司書

ウクライナ侵攻の開始以来、世界中で何百人にも上る歴史専門家、図書館員、IT専門家がオンライン部隊を結成し、建物やサーバーが打撃を受ける前に、ウェブサイトから図書館の資料まであらゆるもののバックアップを取るために協力している。

ツイッターを通じて知り合った欧米の研究者3人が立ち上げたプロジェクト「ウクライナ文化遺産救済オンライン(SUCHO)」は約1200人のボランティアの協力を得て、危機に瀕したウェブサイトやデジタルコンテンツのアーカイブ化を進めている。

SUCHOの共同設立者である米スタンフォード大学のクイン・ドンブロウスキー氏は「私たちは公開されているウェブサイトが、利用不可能になる前に捕捉しようとしている」と述べた。

こうしたウェブサイトをアーカイブ化すればコピーが生成され、今も運営が続いているかのように閲覧することができるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月求人件数、19万件減少 関税懸念で労働需要抑

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中