最新記事

安全保障

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に「待った」かけるトルコ エルドアンの狙いは?

2022年5月19日(木)18時34分
トルコ、スウェーデン、フィンランドの国旗とNATOの旗

フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟という歴史的決断に踏み切る意向を表明した際、NATO側はロシアからの強烈な反発は予想したが、加盟国から異論が出てくる事態は想定外だった。写真はトルコ、スウェーデン、フィンランドの国旗とNATOの旗。同日撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

フィンランドスウェーデン が北大西洋条約機構(NATO)加盟という歴史的決断に踏み切る意向を表明した際、NATO側はロシアからの強烈な反発は予想したが、加盟国から異論が出てくる事態は想定外だった。

だが、14日にベルリンで開かれたNATO外相会合では、フィンランドとスウェーデンの外相を招いて欧州の安全保障に関する歴史が数十年ぶりに良い方向に書き換わるのを歓迎しようとするムードに、トルコが冷や水を浴びせた。

あるNATOの外交官はロイターに、トルコのチャブシオール外相がこの会合で見せたのは、祝賀姿勢と正反対の「危機モード」だったと指摘。その前日にはトルコのエルドアン大統領も、フィンランドとスウェーデンのいずれの場合もNATO加盟は支持できないと発言し、他の加盟国に衝撃を与えた。

チャブシオール氏はトルコが北欧2カ国のNATO加盟を受け入れるための条件を提示しただけでなく、スウェーデンのリンデ外相に対して声を荒げる場面があり、3人のNATO外交官は外交儀礼に反する「恥ずかしい」振る舞いだと苦言を呈した。

別のNATO外交官は「われわれにとって歴史的瞬間だったが、チャブシオール氏がリンデ氏の『フェミニスト的な政策』にいら立ち、大変な事態になった」と明かす。会合場所のドイツ外務省内が非常に緊迫した空気に包まれ、参加者の多くが沈黙を守って雰囲気を落ち着かせようとした、と当時の状況を説明した。

この外交官は「われわれは、トルコが実のところ何を望んでいるのか理解しようと努めた。本当に困ったことだった」と付け加えた。

トルコ側が掲げている主な要求は、北欧2カ国がトルコの反政府武装組織、クルド労働者党(PKK)への支援を止めることと、トルコ向け武器売却禁止措置の撤廃だ。

トルコ外交筋の1人は、チャブシオール氏が敬意を持ってトルコの姿勢をつまびらかにしたし、リンデ氏が主張するようなスウェーデンのフェミニスト的な外交政策がトルコによるNATO加盟反対の理由でもないと述べた。

同筋は「リンデ氏の発言は、スウェーデンのNATO加盟にとってプラスにならない。フィンランドから出された声明は、注意深く策定されている」と論評した。

スウェーデン外務省は、コメント要請に回答がなかった。

対話は継続

今月初め、NATOの複数の外交官はロイターに対し、NATO30カ国全てがフィンランドとスウェーデンの加盟について、安全保障上のメリットをもたらすので支持しているとの見解を示した。それだけに14日の外相会合がトルコによってしらけた雰囲気になったことには、なおさら意外感がある。

NATO諸国は対ロシアで一体となる態勢を生み出すため、記録的な速さで北欧2カ国の加盟を承認したい考えだった。だが、エルドアン氏は16日、スウェーデンとフィンランドの代表団は予定通りにトルコを訪れるべきでないと突き放した。

18日にはトルコ大統領府が、エルドアン氏の重要なアドバイザーの1人がスウェーデン、フィンランド、ドイツ、英国、米国の代表者と電話で話し合ったと表明した上で、トルコの期待が満たされない限り、NATO加盟手続きは進まないと言い切った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中