現在の「ヨーロッパの枠組み」では、ロシアが「次の暴挙」に出るのを止められない
HOW THE EU MUST CHANGE
EUはより柔軟な枠組みに変わる必要がある MICHAEL JACOBSーART IN ALL OF USーCORBIS/GETTY IMAGES
<ロシアのウクライナ侵攻により、EUは従来の形から変化することを迫られている。NATOとの関係や加盟国の結びつきは今後どうあるべきか>
ロシアのウクライナ侵攻がいつ、どのような形で終結に至るのかはいまだに見通せないが、既に明確なことがある。この紛争がEUを劇的に変貌させるということだ。
EUは、19世紀の産業革命とナショナリズムの産物として勃発した2つの世界大戦の破滅的な暴力に対して、西ヨーロッパが出した答えだった。この一連の流れを経て伝統的な欧州の秩序は完全に破壊され、第2次大戦後の欧州大陸はアメリカとソ連という非ヨーロッパ的な2つの大国に支配されるようになった。だが両国の物質的、思想的利害が一致することはなく、核軍拡競争と冷戦の時代が続いた。
1949年のNATO創設により、西ヨーロッパはソ連の侵攻からも、(分割されたとはいえ)復興を遂げつつあるドイツからも守られることが保障された。それにより西欧の安定した秩序は、単一市場における経済統合と共同の制度、共通の法体系、そして最終的には完全なる統合によって実現できるという考えが広がった。
欧州に必要だったのは破滅的なナショナリズムを生み出す社会経済的、政治的な要因を打破することだけでなく、欧州の問題児であり最強の経済大国でもあるドイツを完全かつ恒久的に仲間に引き入れること。その後数十年、NATOとEU(当初は欧州石炭鉄鋼共同体〔ECSC〕で、その後EEC〔欧州経済共同体〕となった)はそれぞれ欧州の安全保障と繁栄を支え、引いては西ヨーロッパの秩序を支える軍事的、経済的な支柱となった。
冷戦の終結で変化を迫られたEU
だが冷戦終結に伴い、欧州の秩序とは何かという新たな疑問が浮上した。その答えは、NATOとEUという西欧の2本柱に中東欧諸国を迎え入れることだった。
中東欧諸国のNATOとEUへの加盟は、集団的安全保障と統一市場の実現を約束するものだった。東西対立の名残を一掃し、経済交流と相互依存によって恒久的な平和を保障することが期待された。
だが、ロシアは異なる路線を走り続けた。領土拡張の主張を繰り返してソ連崩壊後の秩序を覆すことを示唆し、大国への返り咲きを目指したのだ。プーチン大統領は未来ではなく過去に目を向け、ロシア帝国の復活をもくろんでいる。そしてウクライナが西側への統合の意向を表明し始めると、その自由と主権を否定する行動に出た。