現在の「ヨーロッパの枠組み」では、ロシアが「次の暴挙」に出るのを止められない
HOW THE EU MUST CHANGE
EUは今後、安全保障と地政学的問題に従来以上に力を入れる必要に迫られる。しかもスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、EU加盟国のうちNATO非加盟国はオーストリア、アイルランド、マルタ、キプロスだけとなり、欧州の秩序を支える2本柱の関係にも変化が生じる。欧州の安定を望む各国は防衛費を大幅に増やし、NATOへの拠出強化を急がねばならない。またウクライナとジョージア(グルジア)、モルドバのEU加盟申請が示すように、EUが直面する地政学的な難題は今後さらに増大するだろう。
現行の制度と法的枠組みの下でEUが追求できる地政学的な利益は極めて限定的であり、将来的にはより柔軟な構造に移行する必要がある。完全加盟か非加盟かの二者択一ではなく、共通の市場と安全保障、共通通貨などへのアクセスに制限を設けた加盟の形を提供すべきだ。
EUが際限なく拡大することはできない。だが、EUの地政学的利益が完全加盟国の範囲をはるかに超えて広がっている事実は認めるべきだ。権威主義的な政権が脅威となる限り、EUは欧州だけでなく、アジアとの境界が曖昧な東方においても重大な役割を担う。ウクライナ情勢がどう転ぶにせよ、EUは旧来型の制度に固執せず新たな体制に柔軟に移行する必要がある。
ヨシュカ・フィッシャー
JOSCHKA FISCHER
左翼活動家から政治家に転身。ドイツ緑の党の中心人物として、ヘッセン州環境・エネルギー相などを歴任した後、シュレーダー政権では連邦外務大臣兼副首相を務めた。