最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】いま注目は「春の徴兵」、ロシア「失敗」の戦略的・世界観的要因を読み解く

2022年4月28日(木)15時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

河東氏×小泉氏の対談はYouTubeでフルバージョンを公開しています(こちらは全3回の後編) Newsweek Japan


徴兵への抵抗運動が高まってくるかどうかに注目

――ロシア国内の情報統制はどう?

■小泉 まず、ツイッターやフェイスブックといった西側のSNSにはつなげなくなった。これまでは厳しくても中国ほどではないと言われてきた。だが、今回はあっさり遮断された。戦争が始まるといきなりスパっと切ってしまった。

メディアはもともと政府の影響があり、ペスコフ報道官がメディアの編集長クラスを集めて会議を開いている。メディアが取り上げるアジェンダに政府が影響を及ぼしている。

抵抗するテレビ局、ラジオ局はいくつかあったが、そういったものはみんな停波処分になり、ユーチューブチャンネルも閉鎖された。報道官が「今のうちにお気に入りのビデオは保存しておいて」と言っていた。

自分から積極的に情報を探す層はこの戦争はおかしいと思っているが、真っ当に暮らしていて学校や仕事に追われてちらっとニュースを見るぐらいの人は、今何が起きているのか分からない状況だろう。

――テレビ局で放送中に掲げられた反戦プラカードについても、ロシア国内の保守的な人から見れば、理解されなかったということ?

■河東 ニュース番組に女性が乱入し、戦争反対のプラカードが映ったのは一瞬だったので、視聴者には何のことか分からなかったでしょう。それに実態を知ればロシア国民も反対するだろうというのは頭で考えればそうだが、現実のロシアではそうならない。

ほとんどの人は生活で手一杯だし、関心を持っているインテリはほんの一掴み。大衆のほとんどは、ウクライナ戦争には関心を持たない。

自分たちの生活が苦しくなれば関心を持つかもしれないが、その時にプーチンが悪いと思うのか、それとも西側のせいで苦しくなったと思って西側に敵意を持つのか。そこの境目にあると思う。

現在は春の徴兵が行われている。18歳~27歳の一部のロシア人が徴兵されるが、彼らが招集に応じるかどうか。ウクライナをめぐる真実を知っている者は実は多いだろうから、徴兵への抵抗運動が高まってくるかどうか注目している。

■小泉 徴兵逃れは起きるでしょう。2003年に志願兵を増やした際、徴兵は戦地に送らないと言っていたが、5年後のグルジア戦争では送られた。手違いでしたと釈明して、みんな帰したと主張しているが、誰も信じていない。

今の状況では、徴兵も戦場に放り込まれるのは間違いない。みんな徴兵を逃れようとすると思う。ベトナム戦争の時のように大学生が大きな運動をするのではなく、医者に行って金を払い、身体が弱いという診断書を書いてもらうなど、徴兵逃れは個人単位で行われるだろう。

かつてロシアの国防大臣が「我が国の若者は徴兵年齢になると具合が悪くなる」と語ったこともある。郊外のダーチャ(別荘)に隠れて令状を受け取らない方法もある。

すでに戦地にいる徴兵たちが、帰還できるのかが気になる。徴兵の命令は3カ条からなり、徴兵の期間と人数、除隊時期、発効日が書かれている。前回の徴兵の除隊期間が、現状では守られそうにない。

除隊の期限が来たが、志願兵に無理矢理応じさせるケースも出てくるだろう。応じないと服を燃やされることもある。軍から支給された制服や下着は本来は返さないといけないので、出ていいけど全裸だよと。無理矢理応じさせることが、今回も出てくるのではないか。

このように、一見ちゃんとした制度があるようで、しれっと乱暴に乗り越えていくところがロシアの興味深いところです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中