最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】いま注目は「春の徴兵」、ロシア「失敗」の戦略的・世界観的要因を読み解く

2022年4月28日(木)15時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■河東 2024年に大統領選があるから、プーチンが出馬するかどうかに注目している。プーチンの権力を支えてきたのはシロビキという公安や軍といった全国組織を持つ権力機関で、彼らがプーチンを神輿として担いでいる。シロビキたちは今、プーチンが次期大統領にふさわしいかどうか考えている。

1999年12月にエリツィンが任期中に退き、当時のプーチン首相に権力を禅譲した。ロシアの憲法上では、大統領代行は首相がなると書いてあるので、プーチンが退けば次の大統領は首相のミシュスチンになる。税務畑の剛腕だが、わりとリベラルな人でシロビキとの関係は微妙。

そうすると下院議長のヴォロージンが出てくるかもしれない。これは非常に保守的でシロビキの眼鏡には叶う。ただしロシアの民意には叶わない。あれほど国土が大きく経済力のない国を、モスクワから一人で治められる人はいない。

■小泉 プーチンが禅譲して国父のように逃げ切ることは、穏当なシナリオとしてあり得ると思っていたが、カザフスタンの例を見ると、それも危うい。

カザフスタンでは2019年にナザルバエフ前大統領が引退し、後任にトカエフ大統領が就いた。ナザルバエフは憲法上保障された「国父」という地位に就き、人事権や法案提出権も得た上で徐々にフェードアウトすると思われた。これがプーチンのロールモデルにもなると考えられた。だが、その後権力闘争が起き、今年1月に政変が起きて失脚した。

それを見ていたプーチンとしては、禅譲は怖くてできないだろう。今は西側との関係は最悪で、戦争もうまくいっていない。だが、彼のキャラクターから考えると、強硬的に押し切ると思う。国内世論は弾圧し、対外的には大量破壊兵器を使ってでも勝つという、明るくない未来も考えられる。

構成・西谷 格(ライター)

河東哲夫
外交評論家/作家
1947年、東京生まれ。1970年、外務省入省。ソ連・ロシアには4度駐在し、12 年間を過ごしてきた。東欧課長、ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を歴任。退官後、東京大学客員教授、早稲田大学客員教授、東京財団上席研究員など歴任。著書に『ワルの外交』『米・中・ロシア虚像に怯えるな』(いずれも草思社)など。

小泉 悠
東京大学先端科学技術センター専任講師
専門はロシアの軍事・安全保障政策。民間企業、外務省専門分析員、未来工学研究所研究員、国立国会図書館非常勤調査員などを経て、現職。著書に『ロシア点描』(PHP研究所)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)、『「帝国」ロシアの地政学』『プーチンの国家戦略』(共に東京堂出版、前者で第41回サントリー学芸賞受賞)、『軍事大国ロシア』(作品社)他。

日本がウクライナになる日
 河東哲夫 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


【緊急出版】ロシアを見てきた外交官が、ウクライナ戦争と日本の今後を徹底解説。「ニューズウィーク日本版」編集長・長岡義博推薦

私たちの自由と民主主義を守るために、知るべきこと。そして、考えるべきこと。

地政学、歴史、経済といった多角的視点から「複雑なロシアの事情」を明快に伝える。そのうえで、国際社会との関係を再考し、今後、日本の私たちはどこに焦点を当てながら、ニュースを見、政治を考えていけばよいのかがわかる。

平和ボケか、大げさな超国家主義しかない、戦後の日本を脱却するには。

【目次】
第一章 戦争で見えたこと ――プーチン独裁が引き起こす誤算
第二章 どうしてこんな戦争に? ――ウクライナとは、何があったのか
第三章 プーチンの決断 ――なぜウクライナを襲ったのか
第四章 ロシアは頭じゃわからない ――改革不能の経済と社会
第五章 戦争で世界はどうなる? ――国際関係のバランスが変わる時
第六章 日本をウクライナにしないために ――これからの日本の安全保障体制
あとがき ――学び、考え、自分たちで世界をつくる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中