誰もが予想した軍事大国アメリカの「不備」──中国に「船」で苦戦する理由
ロシアと違う中国の侵攻
一般人の頭では、戦争と聞いて真っ先に補給上の問題を思い浮かべることはないかもしれない。
だがウィットマンに言わせると、補給を担う人材は海兵隊員や陸・海・空の兵士たちと同じくらいに重要な役割を果たしている。
軍隊には燃料や弾薬、食料などの物資が欠かせない。こうした物資の供給が途絶えたら、軍隊は活動を維持できない。
ロシアが「数日以内」と見積もっていたウクライナ制圧に50日以上もかかっている原因の一端は、たぶん補給面の弱さにあるのだろう。だが中国が台湾を侵攻する場合は、補給面の心配はなさそうだ。
米国防総省によれば、中国は世界最大の海軍と、かなりの規模の海運力を誇る。一方、中国が台湾に侵攻し、アメリカが台湾防衛の決断を下した場合、アメリカは補給面で厳しい現実に直面するだろう。
米海事局の2021年版の報告書によれば、米船籍で外洋航行に使える商船はわずか180隻。このうち「ジョーンズ法(1920年商船法)」の条件を満たしている船舶はわずか96隻だ。
同法に準拠する船舶は、「戦時または国の緊急時に、海運補助および軍事補助の任務を果たす」ことが求められる。もちろん同法の要件を満たす全ての船舶が軍事的な機能を果たせることを意味するものではないが、そうした機能を果たせる船舶には一定の経済的恩恵が与えられることになっている。
またジョーンズ法は、米国内の港の間で輸送業務を行うことができるのは米船籍の船舶のみと定めている。
米船籍の船舶は外国籍の船舶よりも運用コストが高いが、議会調査局はこの規則について、「米商船隊を支えるのに十分な船舶建造能力と維持・管理能力」を担保する目的だとしている。
つまり理論上は、アメリカが戦争に本格参戦する場合には、同法の下で十分な数の商船や船員が提供できるはずなのだ。
だがUSTRANSCOMのロスは本誌に対して、「米船籍の商船隊は数十年にわたって減少が続いたために、商船隊を本格稼働させるために必要な船員が減ってしまった」と指摘している。
戦略国際問題研究所のポリングも、アメリカが抱える問題として海運業界の凋落を強調。アメリカが本気で戦争をする場合、外国籍の船舶に頼らざるを得ない可能性があると指摘する。
だが有事の際、外国籍の船舶は戦闘地域に展開するリスクや高額な保険料を嫌い、補給業務への協力を拒む可能性があると彼は言う。