NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局
OLIGARCHS IN NEW YORK
マレーシアの資産家でハリウッドの映画製作会社の共同創業者ジョー・ロウも、そんな購入者の1人だ。ロウはその後、政府系ファンドの資金を不正流用し、当時の首相の義理の息子に代わりマネーロンダリングを行った罪で起訴された(資金の一部はレオナルド・ディカプリオ主演作の製作費やパリス・ヒルトンとのパーティー費用に充てられた)。
NYTによると、タイム・ワーナー・センターの取引には、ロシアのオリガルヒであるビタリー・マルキンも関わっていた。マルキンは銀行業を営んでいた96年に、アンゴラ政府の対ロシア債務50億ドルの削減交渉に関わり、当時のアンゴラ大統領らと共に莫大な仲介料を手にした。この取引は「アフリカにおける政府ぐるみの略奪行為の象徴になった」と、NYTは指摘する。
同紙のスクープから程なくして、米財務省傘下の金融犯罪取り締まりネットワークは「地理限定命令(GTO)」を発動した。マンハッタンで300万ドル以上、マイアミで100万ドル以上の住宅不動産取引が全額現金で行われる場合は、権限保険会社に取引当事者(ダミー会社であることが多い)の身元開示を義務付ける措置だ。
これにより不動産取引を装ったマネーロンダリングの取り締まりが大きく前進するかと思われたが、GTOには抜け穴が多いと専門家は指摘する。そもそも買い主が保険加入を断念すれば、このルールに引っ掛からずに済む。法執行当局では、GTOはあくまで「情報収集のプロセス」と見なされていると、TIのカルマンは指摘する。
マネロン取り締まり強化を掲げるバイデン
しかし21年1月に施行されたマネーロンダリング規制法(AMLA)は、アメリカで設立された全ての法人に実質所有者の開示を義務付けている。また、この情報に基づき、金融犯罪取り締まりネットワークは非公開の登記簿を作成し、規制当局と法執行当局、そして一部の金融機関が参照することになった。
バイデンは就任当初から、マネーロンダリングの取り締まり強化を優先課題に掲げてきた。バイデン政権が発表した、連邦政府の汚職を取り締まる包括的な戦略にも、不動産取引が対象となることが明記されている。さらに、銀行秘密法を拡大適用して、不動産取引関係者にマネーロンダリング防止策を義務付ける可能性も出てきた。
「(不動産取引の)真の当事者を明らかにするシステムが初めて確立される」と、上院小委員会の元主任顧問のビーンは期待を込める。