NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局
OLIGARCHS IN NEW YORK
だが、こうした措置はロシアのオリガルヒに対する制裁強化に、あまり役に立ちそうにない。バイデン政権が対ロシア制裁の執行組織として3月2日に立ち上げた「タスクフォース・クレプトキャプチャー」も、制裁対象となるオリガルヒの資産を摘発する手段を十分に備えていない。
それでも彼らのしっぽを捕まえたいなら、14年のクリミア侵攻よりずっと前、「自分の正体を隠すことにさほど注意を払わず」にアメリカの不動産を買いあさっていたオリガルヒにターゲットを絞ることだと、カルマンは指摘する。当時は「アメリカでいい評判を得ようとして、(正体を隠さずに)慈善団体に寄付をしていたオリガルヒもいる」。
そんな方法が本当にうまくいくのか。「この方法に望みを託すしかない」と、カルマンは言う。「全ての犯罪者が天才というわけではないから、まずい文書を関係当局に提出してしまったオリガルヒもいるだろう。もちろん、本当の所有者をたどることができない資金と不動産は大量に残るだろうけれど」
アブラモビッチは「ロシア泥棒政治の後見人」
当然ながら、アブラモビッチは重要なターゲットの1人だ。だが、イギリスやEUは既に彼を正式な制裁リストに加えているが、米政府は4月初めの時点ではまだ制裁対象にしていない。長年、プーチンと側近の汚職を追及し、現在は獄中にあるアレクセイ・ナワリヌイは、アブラモビッチを「ロシアの泥棒政治の後見人であり、その恩恵を得てきた主要人物の1人」としている。
だが、アメリカで彼の資産を差し押さえるのは容易ではない。アブラモビッチは18年に、マンハッタンの資産の大部分を前妻ダーシャ・ジューコワに贈与している。「英政府の制裁発表は、バイデン政権に対するプレッシャーになるだろう」と、マネーロンダリングを専門とする弁護士のロス・デルトンは語る。しかし、「贈与はれっきとした法律行為だ。アメリカでは私有財産は守られる」。
アブラモビッチがニューヨークに持つ不動産を差し押さえるためには、「その不動産が犯罪行為によって取得されたこと、そして(ジューコワが)それを知りながら取得したことを立証しなければならない」と、デルトンは言う。「これは非常に難しい。それに彼女は、最高の弁護団を付けてくるだろうし」