最新記事

経済制裁

NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局

OLIGARCHS IN NEW YORK

2022年4月20日(水)17時09分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

多くのロシア人購入者は弁護士や部下や、富裕層の資産を管理するプライベートバンカーの陰に隠れていた。こうしたアドバイザーは少なくとも、これらの取引の多くでロシア人富豪に会おうとする不動産業者をチェックする「門番」として重要な役割を果たした。実際、市場が落ち込んだ時期は特に、多くの不動産業者がロシアの富豪たちに会った。

リーマン・ショックの余波も

ニューヨークの最高級物件を扱うサザビーズの不動産仲介ブランドを率いるニッキ・フィールドは、08年9月のリーマン・ショックから3週間足らずの頃、モスクワにいた。当時はオフィスの電話が鳴りやまなかったと、フィールドは振り返る。突然職を失ったり経済的苦境に陥ったりして別荘を売却したいという富裕層からで、破綻したリーマン・ブラザーズやベアー・スターンズで働いていた者の場合はマンハッタンの物件を手放したいと言ってきた。

パン・アメリカン航空の元フライトアテンダントでマーケティング担当役員も務めたフィールドは、すぐに問題に気付いた。融資が焦げ付き、富裕層は欧米の金融システム崩壊に備えて金の延べ棒を買い占めて、ニューヨークには高級物件の買い手がいなくなったのだ。

「彼らが退去する物件を引き受け、急いで売らなくてはならなかった」と、フィールドは言う。

皮肉にも、購入に興味を示すロシア人が直面する最大の難題は、アメリカではなく母国の規制要件だった。

「資金をロシアから動かすには、それらの資金について税金の未納がないことを証明する必要がある。しかもロシアの人々は税金が嫌いだ」と、ウクライナ出身でロシア人富豪向けの高級不動産取引専門の弁護士をしていたエドワード・マーメルスタインは言う。12年に私が初めて話を聞いたときは、それまでロシア人向けに500件以上仲介したが、きちんと税金を納めているクライアントとしか付き合っていないと話していた。

これとは対照的に、アメリカの場合、現行法では不動産業者は「しかるべき質問をする義務はなく、基本的に事務手続きだけで物件を売買できる」と、TIのカルマンは言う。

15年、ニューヨーク・タイムズ(NYT)は日曜版に「秘密のタワー」と題する調査報道シリーズの第1回を掲載。タイム・ワーナー・センターの物件の販売とLLCの陰に隠れた多くの怪しげな外国人購入者を結び付け、開示要件の大きな抜け穴と、それがマネーロンダリングに利用される可能性に光を当てた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中