最新記事
中国政治

習近平はなぜ国民の怒り買う「ゼロコロナ」政策にこだわり続けるのか

2022年4月20日(水)09時45分
ロイター

上海では今週まで、最近の感染拡大による死者の報告がゼロだった。ソーシャルメディアには、ロックダウン中に新型コロナ以外の原因で亡くなった人々の話があふれている。この政策は消費やサプライチェーン(供給網)、雇用にも打撃を及ぼしている。

国境はほぼ閉鎖状態で、この2年間足止めを食らっている多くの人々、特に海外渡航に慣れていた富裕層はゼロコロナ政策に怒りを募らせている。他の国々は新型コロナとの共生を試みているからだ。

責任は下級官吏に

上海の住民はインターネット上で不満を訴え、当局者と言い争っている。しかし移動制限、国家によるメディア管理、検閲、当局による素早い抗議コメントの削除により、こうした悲鳴は広がっていかない。

香港浸会大学のジャンピエール・サベスタン氏は「中国共産党指導部はずっと前から習氏をナンバーワンの座に維持すると決めている。習氏とその一派は、彼を守ってすべての弱みや失敗を下級官吏のせいにするためになら、どんな理由や言い訳でも見つける」と述べた。

国民の不満が世論調査や投票の形で現れる民主主義国家と異なり、独裁的な体制で指導者が危険にさらされるのは政敵が力を発揮した時だけだ。上海政法学院の元准教授で今はチリでコメンテーターをしているチェン・ダオイン氏はそう語る。

「習氏は既に有力な政敵をすべて排除したため、国民の怒りは大して彼に影響を与えられなくなっている」

武漢で最初に新型コロナの感染が爆発した時には、国民の間に恐怖が広がりネット上に抗議の声もあふれたが、習氏は結局、政治的な打撃をほとんど受けずに済んだ。政府は最終的に、この時の対応を「勝利」に仕立て上げた。

一方で下級官吏の多くは責任を負わされた。今回の感染拡大で各都市当局が速やかに制限措置を実施した背景には、そうした経緯もある。 

上海で感染が拡大する前、上海市党委員会書記の李強氏は、党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会メンバーに昇格し、三期目に入る習氏の盟友として仕えると広く予想されていた。

チェン氏は「上海の感染拡大で李氏が罰せられれば、習氏が計画する次世代党指導部の顔ぶれに混乱が生じかねない」と見る。感染が拡大した他の都市ではトップレベルの高官が更迭されたり厳しく非難されたりしたが、上海では非常に低いレベルの役人しか処罰されていない。

「1カ月以内に上海の状況が落ち着けば、習氏と李氏はともに、これまで考えられていた通り望み通りの地位に就けるかもしれない」とチェン氏は語った。

(Yew Lun Tian記者、 Tony Munroe記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・コーギー犬をバールで殺害 中国当局がコロナ対策で...批判噴出


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジルCOP30議長、米のパリ協定再離脱の影響懸

ワールド

韓国、務安空港のコンクリート構造物撤去へ 旅客機事

ワールド

中国の太陽光・風力発電の新規導入容量、24年も記録

ワールド

トランプ政権、沿岸警備隊の女性トップ解任 DEI政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中