最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ兵がロシア人捕虜を虐殺すれば邪悪のスパイラルになる

Ukrainians Killing Russian POWs Risks Spiral of 'Depravity'—Expert

2022年4月12日(火)17時24分
ジャック・ダットン

ロシア兵との捕虜交換に向かうウクライナ兵(2015年、ウクライナ東部ショロボク) Igor Tkachenko-REUTERS

<憎しみと報復感情のなかで戦闘行為と戦争犯罪の区別がつかなくなると>

ウクライナ軍の兵士が、捕虜として拘束した複数のロシア兵を射殺する場面を撮影したとみられる動画(本物と確認済み)が、ネット上に公開された。専門家は、このような行為は戦争を「言葉にできないほど邪悪な所業」の応酬に陥らせる危険があると、警告している。

問題の動画は、4月7日に公開された。本誌はこの動画について、ウクライナ外務省にコメントを求めたが、本記事の発行時点までに返答はなかった。

米防衛&国際安全保障研究所のディレクターを務めるピーター・キャディック・アダムズは、動画について「憂慮すべき」内容だと指摘。だが「何が起きているのか」を断定するのは困難であることから、これが戦争犯罪にあたるかどうかについてはコメントできないと述べた。

「肝心なのは、動画の背景にどのような事情があったかということだ。(撃たれて)横たわっている男は、動画の撮影が始まる前に手りゅう弾などを投げようとしていたのか。これは処刑なのか、それとも戦闘の一場面なのかが重要なところだ」とキャディック・アダムズは本誌に語った。

民間人虐殺への復讐感

彼はまた、ウクライナ兵が複数のロシア兵をひざまずかせて銃で撃つ様子を撮影した、別の未検証の動画についても言及した。

「動画が本物なら、断じて受け入れられない行為だ」と彼は述べ、これまでウクライナ側でこのような実例の報告が浮上してこなかったのはむしろ意外だった、とも語った。

キャディック・アダムズによれば、プロの兵士は戦闘行為と戦争犯罪の違いを理解しているはずだが、徴集兵や民兵はその区別ができない傾向にある。

「ウクライナ戦争では、古いタイプの戦争が復活しているようだ、徴集兵と徴集兵、民兵と民兵。多くの人が、現代ではもう見ることはなくなったと考えていた。とても気の滅入る光景だ」と彼は述べた。

「ボスニアをはじめとする複数の戦闘地域で従軍し、虐殺や虐待を目の当たりにした兵士たちの強い憤りを見てきた経験から言うと、冷静な統率者がきわめて重要だ。それがなければ、言葉にできないほどの邪悪の応酬に陥る可能性がある」

キャディック・アダムズはまた、ウクライナの首都キーウ(キエフ)の北西にあるブチャで、ロシア軍が民間人を虐殺したとみられることについて、ウクライナの兵士の間には復讐感情があるだろうと言う。「だからといって戦時国際法に違反する行為が正当化される訳ではない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中