最新記事

経済制裁

ウクライナ支援していた在外ロシア人に資金凍結の影響 難民支援の振込も停止の不条理

2022年4月4日(月)11時31分
ロンドンで著名なレストラン経営者となったロシア人エブゲニー・チクバルキンさんとタチアナ・フォキナさん

ロシアの「通信事業王」として名をはせた後、2008年に同国を出てロンドンで著名なレストラン経営者となったエブゲニー・チクバルキンさん(写真右)は長年、ウクライナを声高に支持してきた左はタチアナ・フォキナさん。2人が経営するロンドンのバーで23日撮影(2022年 ロイター/Dylan Martinez)

ロシアの「通信事業王」として名をはせた後、2008年に同国を出てロンドンで著名なレストラン経営者となったエブゲニー・チクバルキンさんは長年、ウクライナを声高に支持してきた。

ロシアが2月24日にウクライナに侵攻してからは、ウクライナ人を助けるためにパートナーのタチアナ・フォキナさんと共にトラック4台分の医療品と防護設備をポーランドに届けたとチクバルキンさんは話す。最初の1台分は自身が運転して行った。

しかし、長年にわたりプーチン・ロシア大統領の批判派だったチクバルキンさん(48)は最近、スイスの銀行に持っている口座の1つを突然凍結されてしまったという。

彼のように、西側の制裁によって直接の標的にされていないにもかかわらず、自分の財産を動かしにくくなっている国外在住ロシア人が増えている。

ロイターは国外で暮らすロシア人9人と、その資産運用会社、弁護士、税理士、不動産・美術品ブローカーを取材。プーチン氏とその取り巻きを罰するための西側の制裁が、ロシアのパスポート保有者を一網打尽にしている実態が浮かび上がった。

二重国籍を持つ国外在住ロシア人4人は、ロンドン、チューリヒ、パリで銀行口座もしくは決済を凍結されたと明かした。ロンドンに住むある富裕なロシア人は、買い物を現金決済に切り替え、目立たないように暮らしていると述べた。

資産アドバイザーと弁護士は、ロシア人顧客が銀行口座の開設を拒否されていると話した。銀行側は、ロシア人の資金には特段の注意を払っていると説明。ブローカーは、不動産や美術品の取引が一部中断されていると明かした。

ある弁護士によると、ロシア人顧客らは税関で足止めになるのを恐れて海外渡航を控えている。西側の銀行は、たとえ慈善団体への寄付であってもロシア人の資金には疑いの視線を張り巡らしているからだ。二重国籍が脱出のルートになった日々は過ぎ去った。

ロンドンとワシントンで法律事務所を経営するボブ・アムステルダム氏は「ホテルから出られないロシア人や、クレジットカードが使えなくなって資金が底を突いた学生などの世話をしている」と話す。

銀行も、ロンドンの金融街シティーの有力法律事務所も、「国籍を理由にロシア人に門戸を閉ざしてしまった」とアムステルダム氏は語った。

静かに暮らす

ロシアと英国の二重国籍を持つ弁護士は、ロシア人は居住地や資産状況にかかわらず精査されると説明。「今現在、ロシアのものは何であれ有害だ。だから、だれもがロシア人顧客に関する事柄には極めて慎重に対処しようとしている」と述べた。

二重国籍を持つロシア人で、2005年からフランスに住むジャーナリストのエレーナ・セルベッタズ氏は、自身の口座に対する1000ユーロ足らずの振り込みを仏銀クレディ・ミュチュエルがはねつけたと話す。ウクライナ難民支援のためにロンドンから彼女に送られた資金だ。

銀行はセルベッタズ氏の問い合わせに対し、彼女がロシア国籍を持っているため警戒したと説明。資金を受け取れたのは1週間後だった。

「ロシアへの反対にくみし、ウクライナ難民を助けているのに、『ロシア人だから金を受け取れない』と言われるのはあまりに不公平だ」とセルベッタズ氏は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、空爆でヒズボラ指導者ナスララ師殺害 イ

ワールド

石破自民新総裁、林官房長官続投の意向 財務相は加藤

ワールド

イスラエル、ヒズボラ本部を空爆 指導者ナスララ師標

ワールド

ハリス氏、南部国境地域を訪問 不法移民の取り締まり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
2024年10月 1日号(9/24発売)

被災地支援を続ける羽生結弦が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッション」に世界が驚いた瞬間が再び話題に
  • 2
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    【クイズ】「バッハ(Bach)」はドイツ語でどういう…
  • 5
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断さ…
  • 6
    メーガン妃が編集したヴォーグ誌「15人の女性をフィ…
  • 7
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
  • 8
    南洋のシャチが、強烈な一撃でイルカを「空中に弾き…
  • 9
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 10
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 1
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 2
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感...世界が魅了された5つの瞬間
  • 3
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断された手足と戦場の記憶
  • 4
    白米が玄米よりもヘルシーに
  • 5
    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…
  • 6
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 7
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…
  • 8
    先住民が遺した壁画に「当時の人類が見たはずがない…
  • 9
    50年前にシングルマザーとなった女性は、いま荒川の…
  • 10
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 7
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 8
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 9
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 10
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中