マレーシア、ミャンマー民主勢力と接触 世界の関心がウクライナに移り関係者に苛立ちも
NUGはトップにスー・チー氏らが名を連ね、閣僚クラスには少数民族出身者もおり、多くがミャンマー国内に潜伏中か海外を拠点としているという。いずれも軍政はその身柄を拘束しようとしている。
このためサイフディン外相は面会したNUG関係者の名前や面会時期、場所などに関して明らかにすることを避けているが、相手はNUGの閣僚クラスでオンラインによる会談であったことは明らかにしている。
ASEANの閣僚としてNUGとの接触を初めて実現させたサイフディン外相は、2021年10月にはミャンマー軍政に対して「ASEANの仲介努力に非協力的姿勢を続けるならNUGとの対話を進めるしかない」として軍政に圧力をかけた経緯がある。今後もインドネシアやシンガポールと協調してミャンマー軍政に厳しい姿勢で臨むことが期待されている。
ASEANの仲介工作に不満続出
昨年10月からASEAN議長国となったカンボジアのフンセン首相は、今年1月に電撃的にミャンマーを訪問したものの、軍政幹部らとの面会しか実現していない。ASEANとしては昨年10月の首脳会議にミャンマーを招待しなかったし、このままの膠着状態では今後のASEAN各種会議からもミャンマーは排除されることになる。
こうした状況でカンボジアは「ミャンマーを招待して対話することが重要」とミャンマーの会議招待を提案したが、反対論が噴出し実現しなかった経緯もある。
また、NUG側も「ASEANがミャンマー問題の仲介、解決に熱心とはいえない」と批判的だ。「ASEANの各国首脳はミャンマー問題解決の原則でもある5項目議長声明の実現、特に武力行使の即時停止や組織的人道支援の受け入れなどの実現に失敗している」と避難している。
また国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォチ(HRW)」も4月22日に「ASEANの仲介工作は功を奏しておらず、新たな手法を考えるべきだ」と非難。さらに「ミャンマー軍政はこの1年、首脳会議での5項目合意に無関心なまま残虐な行為に加担した」と軍政を厳しく批判した。また「過去1年間各国政府はASEANの中途半端な表明を鵜呑みにしてミャンマーに対する行動を遅らせてきた」と国際社会にも厳しい目を向けている。
ロシア軍の軍事侵攻を受け、人権侵害が明らかになっているウクライナとの比較でミャンマーへの国際社会からの注目、支援が不足しているとの不満もミャンマー国民からは噴出しているという。タイに本拠を置く人権団体「政治犯支援協会(AAPP)によると4月22日の時点で」軍政により殺害された市民は1782人にのぼり、逮捕された市民は10290人に達している。
この数字はミャンマー軍政が今なお抵抗する市民らに強権で臨んでいることを示しており、マレーシアの動きを原動力に新たなASEANの仲介、和解への道筋模索が期待されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など