最新記事

ウクライナ

ウクライナ防衛で3Dプリンターが活躍 止血帯から武器までガレージで生産

2022年4月22日(金)15時23分
青葉やまと

ポーランドの3Dプリント企業シグニス社がウクライナからの支援要請に応じた image:Sygnis

<物資不足のウクライナで、医療品を現地生産できる3Dプリンターが救命活動に利用されている>

ウクライナ国内で3Dプリンターを活用し、防衛に必要な物資を自作する試みが広がっている。物資の支給が限られた現場で、軍から民間ボランティアまでが試行錯誤しながら作業を進める。

3Dプリンターは生産品のサイズや強度などに限界がある一方、限られた製品に特化する専用工場とは異なり、設計図さえあればあらゆるパーツを生産できる。物流が混乱する有事において、医療・防衛のための必需品確保の手段として注目を集めている。

現在とくに需要が伸びているのが止血帯だ。負傷者の手脚にバンドを巻きつけ、さらにプラスチック製のハンドルを回転させることで締め付けを調整・固定し、適切な止血状態を維持できる。

ほか、医師が用いる聴診器や、身を守るための潜望鏡、ひいては偵察用ドローンの補修部品まで、数々の品が3Dプリントされている。必要な器具が不足していればSNSで設計図が共有され、3Dプリンターを所有する企業とボランティアがガレージで3Dプリントするという体制だ。

一般的なプリンターは平面の紙のうえに文字を印刷するが、3Dプリンターは材料となる樹脂を指定した形状に固めることで、立体的なパーツの出力が可能だ。溶かした樹脂を層状に積み重ねる「積層式」や、液体樹脂に紫外線を当てて液中で硬化させる「光造形式」など複数の手法がある。

医療品を3Dプリントで供給

医療品の3Dデータを販売しているカナダのGilaプロジェクトは、独自に開発した止血帯の設計データの無償公開に踏み切った。業界誌『3Dプリンティング・インダストリー』が報じている。止血帯の設計データは共有サイト『Github』で公開されており、ウクライナの医療機関または市民であれば誰もがダウンロードして止血帯を3Dプリントすることができる。

この止血帯はガザ止血帯と呼ばれ、2018年にパレスチナ・ガザ地区で繰り返され2万8000人が負傷した大規模なデモでの救護に使用され、実用性が証明されている。

戦地で使用される止血帯としては、アメリカ軍などが使用する戦術止血帯が標準的に利用されている。一方、ガザ止血帯は製造コストが20米ドル(約2500円)と低く、戦術止血帯の半分のコストで大量生産できる。

安価ながら医療機器として正式承認

Gilaプロジェクトはまた、聴診器の3Dデータも提供している。患者の胸部にあてるチェストピースから、医師の耳に当てるイヤーチップ、そしてこれらを結ぶチューブとバイノーラルまで、すべてを3Dプリントして組み立てることが可能だ。

こちらも製造コストは計20米ドルと安価ながら、業界標準であるリットマン聴診器と同等の性能を確保している。カナダ保健省は同製品を正式な医療機器として承認した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ支援・ロシア制裁へ法案提出、米民主下院議

ワールド

AUKUSの豪原潜配備計画、米国の技術輸出規制が障

ワールド

金ETFへの資金流入、中国が米国を上回る 需要増加

ワールド

ロシア、2050年までに天然ガス輸出が大幅増加と予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中