2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由
ウクライナ軍が奪ったロシア軍の戦闘車両のそばに残されていたロシア兵のブーツ(ウクライナ北東部ハルキウ〔ハリコフ〕、3月29日)
<プーチン大統領がこんな自滅への道を歩むとは思わなかった――。外交官を務め、50年以上ソ連・ロシア観察を続けてきた河東哲夫氏が今回のウクライナ侵攻の序盤に見たもの>
日本は民主主義のもと、平和と自由が守られている。それだけに、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻に今、多くの人が衝撃を受けている。
1つの国家が国際社会の秩序を無視すれば、戦争が起こる。その現実を前にし、私たちは、ただ声高に「戦争反対!」と叫んでいるだけでいいのだろうか?
あるいは、超国家主義に傾けば日本を護ることができるのだろうか?
国防をめぐる不安が高まるなか、外交官として、在ロシア公使や、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を務め、50年以上にわたりソ連・ロシア観察を続けてきた河東哲夫氏が、『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)を緊急出版した。
ロシア・ウクライナ戦争の背景と現状を、歴史・軍事・地政学に基づいて解説し、日本の安全保障を考えていくうえで知っておくべきことを伝える本書から、一部を抜粋する。
2022年2月24日、それまでウクライナとの国境に集結していたロシア軍は、ウクライナへの侵入を開始した。その数、初めはおよそ10万人と推定される。
同時にウクライナ北方のベラルーシで「演習していた」ロシア軍も、60キロ余もの車列を組んで、わずか100キロメートル南のウクライナの首都キエフをめざす。
キエフ近郊のホストーメリの空港にはロシア軍ヘリコプターが8機ほど押し寄せて、防空設備を破壊した。
(※2022年3月31日、政府はウクライナの地名表記を、ロシア語を基にした表記からウクライナ語に沿った表記に変更する方針を定めたが、本書では執筆時の表記に従っている)
怒濤の進軍で圧勝、のはずが......
ウクライナに侵入したロシア軍の作戦はこうだっただろう。
これまで半分しか抑えていなかったウクライナ東部、つまりロシア語人口も多いドネツ州、ルガンスク州の全部(ロシアへの編入を望む住民は全体の20%もいない)、そしてこれまでウクライナの右派勢力に阻まれていたハリコフ州も制圧する。
さらには、黒海の北の袋のようなアゾフ海への出口マリウポリ、黒海への出口ヘルソン、オデッサを制圧することで、ウクライナと海外の交易路をふさぐ。そして首都キエフを制圧することで、ウクライナを降伏に追い込む。
さすが、柔道家プーチン。いざしかけるとなると矢継ぎ早なのだ。
それはまるで昼日中、強盗が隣の家のドアや窓を蹴破って侵入するのを見ているようなシュールな光景。世界中の専門家で、このように大胆な侵略を予想した者はほんのわずかだった。
僕も、プーチン大統領がこんな自滅への道を選ぶとは思わなかった。なんで自滅なのか。